開けないで!

    作者:八花月

     とある小学校。放課後の校庭……子供達はもう、とっくに下校していた。
    「懐かしいな」
    「椅子とか机とかちっちゃかったねー」
     二十歳過ぎの男2人、女1人の三人組が校庭の端の方を歩いている。
    「あの辺じゃなかったか?」
     彼らは、10年前に埋めたタイムカプセルを掘り出しにきたのだ。
     持ってきた片手用の小さなスコップで、目印の木の根元を掘り進む。
    「あった!」
     男のスコップの先に硬い感触があった。
     土を払いのけてみると、安っぽい金属製の箱の蓋が現れる。
     早速蓋を開けると、古い自分宛の手紙が出てきた。
    「わあっ! なつかしー!」
    「うわ、汚い字」 
     思い思いの感想を口にしながら、それぞれ過去の自分と向き合う。
    「ん? ……なんだこれ?」
     底に残った一枚の封筒。……誰も入れた覚えがない。
    「かまわねえよ。開けちまえ」
     男が封に手をかけた瞬間、
    「開けないでー!」
     凄まじい音と煙とに包まれ、姿を現す黒髪の女子高生。
    「な、何よあなた!」
    「誰?!」
     動揺した拍子に、封筒の上部を破ってしまいそうになった。
    「見ないでって言ってるでしょー!」
     女子高生は己の気力を拳に込めて、渾身の力で三人に殴りかかる……。
     
     ……と、いうような感じでだな、と、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002) は喋り始める。
    「要するにこの都市伝説、通称『開けないでちゃん』は、昔埋めた特定のタイムカプセルを掘り起こし、中にある特定の手紙を開けると出現する。恥ずかしい思い出を甦らせたくない強い気持ちが、実体化したものだ」
     後から恥かくんなら最初っから埋めなきゃよさそうなもんだが、と言いながらヤマトは頭を掻いている。
    「出てくるだけならいいが、その後手紙を開けようとした人間達に襲いかかるみたいだ。今回はそれを止めて欲しい」
     一つ息を吐いて、顔つきが真面目になる。
    「ま、このカプセル自体掘るのを阻止すれば、都市伝説も出てこないんだがな。なんかのはずみで、誰か関係ない奴が掘り起こしたら危ないから、灼滅しちゃってくれ。不発弾の処理みたいなもんだ。手紙の封を切らずに、燃やしたりどっかに捨てたりしても出てくるからな? 埋めた奴等が来る前に先に掘って開けてもいいし、掘り起こしたぐらいに行って手紙だけ回収して、どこかよそで開けてもかまわん。その辺はまかせる」
    「えー、まとめると出現条件は『手紙の封を開けようとすること』。そういう素振りをするだけでも、出てくる。まるで狂犬だな」
     ただ、とヤマトは言葉を継いだ。
    「こいつは一応話しは通じる。自分の恥ずかしい過去の思い出を喋って、共感を得る事が出来れば攻撃の隙が出来るかもしれん。もしくは戦闘能力が下がったり……もしかしてすごく上手くいけば、自分から灼滅されてくれることもあり得る」
     自分の言葉に、自分で頷く。
    「使うサイキックは、ストリートファイターとバトルオーラに似たヤツみたいだ。ポジションはクラッシャー。……なんでこんな肉体派なんだろうな?」
     どうでもいいことだが、とヤマトは付け足してため息をついた。

    「ま、こんな感じだ。お前達も色々思うところあるかもしれんが、頑張って退治してくれ。誰でも、恥ずかしい思い出の一つや二つあるもんだ……あるよな? な?」
     自分の過去の何かを思い出している様子で、ヤマトは灼滅者達を送り出した。


    参加者
    東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)
    桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)
    宮野・連(炎の武術家・d27306)

    ■リプレイ

    ●思い出の眠る場所
     夕暮れの校庭を歩く一般人の三人。何か他愛のない事を話しているようで、皆屈託のない笑顔である。
    「昔のことを思い出しながらタイムカプセルを掘り起こすのはきっとわくわくするだろうね」
     五十嵐・匠(勿忘草・d10959)はその様子を植え込みの陰から見ながら、呟いた。
    「……幼い約束を交わして、来るかどうかわからない未来を信じて疑わずに。その約束を果たす事ができるなんて凄い事だな。邪魔をするなど野暮な話だ」
     雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)もそれに応えるように、言った。
     唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)、東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)、宮野・連(炎の武術家・d27306)達も、それぞれ何か胸に去来するものがあるようだ。
     武蔵坂学園の灼滅者達は複雑な過去を持っている者が多く、色々と思う所があるのかもしれない。
    「恥ずかしい思い出だって、笑い話の一つとして楽しめばいいと思うのだけれど」
     匠が相変わらずの無表情で呟くと、
    「まぁ、なかなか消化しきれねぇ記憶みてぇなもんもあるんだろ……あいつら上手くやりゃあいいが」
     と連も口を開いた。他三人の灼滅者達は、各々闇纏い・旅人の外套のESPを使い、一般人にピッタリ貼りついているのだ。
    「椅子とか机とかちっちゃかったねー」
     純真そのものといった様子で話している一般人達の横で、
    「一生に一度しかない大事なタイムカプセルの開封式……邪魔は最小限に抑えて、綺麗な思い出のままで終わってくれたらいいな」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は、誰ともなく口を開いた。ESPの効果で一般人にその声が聞こえる事はない。
    「せっかくのカプセル開放が悲劇になるなんてかわいそうだし、きっちり防ぐためにがんばろうっ!」
     グッと握り拳を作って、桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)が囁く。声は一般人には届かない、とわかっていてもつい小声になってしまう。
     やがて、一般人達はタイムカプセルを掘り出し始めた。めいめいの手紙を見つけて……。
    「あれ……?」 
     全員、崩れ落ちるようにその場にへたりこんでしまう。神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)のESP、魂鎮めの風がジャストのタイミングで作用したのだ。
    「おっと」
     膝が折れて倒れそうになった、一般人の女を東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)が後ろから支えた。
    「取ったよー!」
     月夜が問題の手紙を手に持って、ヒラヒラさせている。
     取りあえず回収は成功。これからが本番だ。

    ●手負いの獣  
    「自滅するかもしれぬ都市伝説とは哀れのような気も致しますね」
     蓮爾が、ふう、と軽くため息をついて口を開いた。
     灼滅者達は皆、人気のない体育館の裏に移動している。
     イヅルの殺界形成、連のサウンドシャッターで一般人対策も万全だ。
    「じゃ、いーい? 開けるよ」
     えい、と小さく掛け声をかけて、月夜が一気に封筒の上部を破いた。
    「開ーけーなーいーでーよー!」 
     ドカーン! という凄まじい謎の破裂音と共に、もうもうと湧き立つ砂煙り。
     視界が開けてくると、灼滅者達の目の前には黒髪の女子高生が仁王立ちで傲然と立ちはだかっていた。眼にはうっすら涙を浮かべている。
     ちょうど後ろに位置していた匠が、物も言わずに鋭く尖った得物で螺穿槍を繰り出した。
    「ッッ!」
     受けた都市伝説の顔は苦痛に歪む。
    「あなた達……」
     都市伝説は、ゆっくりと周囲を睥睨する。
     灼滅者達は、既にぐるりを取り囲んでいた。
    「8人……こんなに大人数で……」
     ゆっくりと絞り出すように、言葉を紡いだ。
    「そんなに、そんなに知りたいのね……アタシのヒミツを……この、人でなしどもめーっ!」 
     都市伝説は拳を作り、半身になって構える。身体中から憎しみのオーラが立ち昇っていた。
    「い、いや、正直そんなに知りたくはねえが……ちぃっとばかし、付き合ってもらうぜ!」
     連は、巨大な縛霊手を振りかぶり都市伝説に叩きつける。
     網状の霊力が都市伝説を覆った。 
    「この……! みんなアタシをバカにするんだからー!」
     もがきながら、突進する。連のカリバーも機銃を掃射するが都市伝説は止まらない。
    「どんなに恥ずかしい思い出も自分の中で昇華していかないといけない…ってだれかがいってたわね。この都市伝説にもそれがわかるといいのだけど」
     識は呆れながら、動きが鈍っている都市伝説の横っ面を、異形の腕で思い切り殴りつけた。
     のけぞりながら、1メートルほど後方にフッ飛ぶ都市伝説。
     しかし強靭な足腰で持ちこたえ、踏ん張って体勢を立て直した。
    「この程度では倒れない……アタシの決意を甘くみないことね!」
     都市伝説は地面を蹴り、なおも進む。勢いはまだ死んでいない。
    「小細工なしの真っ向勝負……これからタイムカプセルを開ける人たちのためにも、ここで倒させてもらう」
     透流も、噴煙を上げるロケットハンマーで真正面から殴りつける。
     都市伝説は攻撃を受けつつも、これまでの余勢を駆って、透流にアッパーカットを放った。
    「っ……!」
     ガードの上からだが、衝撃は通る。続けて第二撃を放とうとした都市伝説だが、
    「な、なに?」
     赤い衣を身に纏った女性が、腕に絡みつくようにして都市伝説の鉄拳を受け止めている。蓮爾のビハインド、ゐづみだ。
    「どれ、お邪魔いたしますよ」
     縛霊手を装着した蓮爾の指先から、清浄の光が透流に撃ち出され、受けたダメージが回復した。
    「なーるほど、仲良しこよし、ってワケね」
     都市伝説はゐづみを振り払う。
    「いいわ! 1人ずつブチのめしてやる!」
     都市伝説……開けないでちゃんは、胸元のスカーフをほどき右拳にキュッと巻いた。
     バンテージ代わりというわけだろう。

    ●防衛本能  
    「……本当は影業でトラウマをかけてやろうかと思ったが、可哀想だからな」
     細身の腕には不釣り合いである直人の魁偉なバベルブレイカー、『サンザシの境界杭』が都市伝説に襲いかかる。
     恥ずかしい話は試してみないのか? と交戦しながら直人が皆に呼び掛けた。
    「例えば小学生ならではの、今思い出すとちょっと恥ずかしいニックネームとか……先生のことをお母さんって呼んだりとか?」
     匠がスターゲイザーを放ちながら、ぎこちなく恥ずかしい話を披露する。
    「私の恥ずかしい思い出を喰らうといい。ランドセルを学校に忘れたまま、家まで帰った! 図書室の本を借りたまま、小学校を卒業した! 台形の公式の上底と下底を『うわぞこ』と『したぞこ』って覚えてた!」
     透流は早口で喋りながら『安息と沈黙のシリンジ』の毒を、都市伝説に注射した。
    『山田の図書室の本の話は結構恥ずかしいな』
     心中で独りごちながら、イズルは自らの炎を都市伝説に打ちつける。
    「そ、そうそう! 髪型とか服装とかー! その時はイケてると思ってたけどー! あとから写真見返してみるとちょっとアレとかー! よくあるよねー!」
     月夜は激しくギターをかき鳴らし、音波を撃ち出しながら声を張る。
    「俺も、ついついコンビニでビニ本コーナーを目線で追ってしまったりとかは、あるが……」
     直人が考えながら喋り終えると、都市伝説の動きが一瞬止まる。
    「そんな、そんな……そういうレベルじゃないのよ、アタシのヤツはー!」
     しかし、都市伝説の心には届かなかったようだ。
     腕を交差させると、全身のオーラを爆発させる。今ので自らの体力を回復を回復し、コンディションをある程度整えたようだ。
    「今の、多少混乱させるくらいの効果はあったみたいね。それにしても、ここまで嫌がられると、逆にちょっと興味が出てくるわ」
     識は軽く嘆息しながら、前に出る。
    「…そうそう、私も昔温泉に行ったとき。混浴と間違えて、性別逆に風呂に入ってしまったことがある」
     都市伝説は、ハッして立ち止まった。
    「あと、ママチャリに乗って口で効果音だしながら暴走族ごっこ…とかもあったわね」
     識は涼しい目元のまま、袖で口元を隠している。
     では僕も、と蓮爾がススッと前に出た。
    「体操服を忘れて昼休みに慌てて取りに帰り、戻ったところ、走り過ぎて顔が真っ赤だったのを友人に指摘され泣きっ面に蜂状態だったこと。階段から盛大に転がり落ち、けれど周囲は何事も無かったかのように完全に無視されたこと……辺りは如何でせう?」
     柔和な笑みを浮かべ、蓮爾は語りかけるように言う。
    「それは……結構なアレだけど……ちょっと嘘っぽい感じがする!」
     都市伝説は少し考えた後、再び敵意をむき出しに掴みかかって来る。
     蓮爾が投げ飛ばされたが、すぐさまイヅルの霊犬、ワルツが薄く輝く浄霊眼を向け回復した。
    「開けないでちゃん、わりと面倒なコだね……」
     月夜は苦笑いしている。
    「考えてる時に殴っちまえばよかったんじゃねぇかな?」
     連も段々面倒になってきたようだ。
     
    ●散る夢 
     識が、オーラの籠った拳で都市伝説に凄まじい連撃を繰り出す。
    「なめるなあッ」
     ガードしながら少し距離をとった都市伝説が、両手から集中させた気を解き放った。
     一瞬の隙をついて、イヅルが手にしたマテリアルロッドで都市伝説を殴りつける。魔力が都市伝説に流れこみ爆発が起こった。
     なおも怯まない都市伝説は、握り固めた拳で前方の直人に打ちかかろうとしたが……。
    「ろくた……!」
     霊犬・六太がそれを庇う。思わず匠が心配して名前を呼んでしまったが、致命傷にはならなかったようだ。
     バランスを崩した都市伝説に、透流の殺人注射の針が刺さった。毒のダメージが『開けないでちゃん』を蝕んでいく。苦痛に顔を歪める都市伝説。
     透流は、『より非情にならなければ』と、自分に言い聞かせているように見えた。
    「神楽先輩は俺が!」
     ダメージを負った識をイヅルが、回復する。同時にシールドリングの光輪が盾を作った。
    「えーいっ!」
     それを尻目に月夜がギターで都市伝説に殴りかかった。
     最早かなりダメージが蓄積されている。
    「……ねえ、そこのあなた達?」
     都市伝説が血のついた口を拭いながら、連とイヅルに語りかける。
    「あなた達には何もないの? 過去の苦い思い出は?」
    「……言いたくねぇ思い出なんざ、色々あるだろ?」
     連はそう言うと、そっと目を逸らした。
    「俺も、本当に恥ずかしい話は人に言えるレベルじゃないと思ってる」
     イヅルもボソっと呟く。
    「それは」
     都市伝説が口を開き、灼滅者達に緊張が走った。これまでの成り行きを思い出したのだ。
    「……わかるわ。それは確かにそうね」
     都市伝説は静かに肩を落とした。
    「本当に痛みを伴う記憶は、口に出せるものじゃない」
     何かを思い出すように、握った拳を見つめている。
    「……これは今、どういう状態?」
     匠は武器を構えたまま、誰ともなく呟いた。
    「やってしまってもいいのではないかしら?」
     識が物憂げに応える。
     そうね神楽嬢、と言うと匠はエアシューズを走らせ、炎の蹴りを放つ。都市伝説の顎に入った。
     その瞬間、直人は日本刀・霧雨を瞬時に抜刀する。
    「……自分の手紙を読まれるのは恥ずかしいだろうが、それも過去の自分と思って認めていくしかないだろう。……って、都市伝説に言っても仕方ないか」
     直人の神速の居合が、都市伝説に止めをさした。
    「モノローグの途中なのにー!  卑怯モノー!」
     断末魔と共に、都市伝説が灼滅される。
    「入れたときはなんとも思わなかったけど、あとから恥ずかしくなるってこともあるし、仕方ないのかもね」
     月夜は、手紙は見なくていいよね? と皆に確認を取ると、丁寧に細かく破いて、再び封筒にしまう。帰り道で、どこかのゴミ箱にでも捨てるつもりなのだ。異存のある者はいなかった。
     匠は六太のふかふかの毛並みに頬を寄せてもふもふしている。戦闘が終わり、一息ついているのであろう。
    「私たちのタイムカプセルを開けるときには、また同じような噂が流れていないといいな……」
     透流の言葉は、灼滅者達の深い部分に沁み通る。
     日常的に戦いの中に身を置く灼滅者達だからこそ、何でもないような日々の記憶の本当の大切さも理解出来るのだ。
     ……一般人にとっては恥と思うような種類のものでも。
     灼滅者達は、識が眠らせた一般人達の無事を確認し、静かに現場を後にした。



    作者:八花月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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