
●
早朝の牧場にて。
十二匹の豚が、酪農家のおじさんを取り囲んでいた。
背中には、一様にライフルが装備されている。
「ぶう」
赤毛ボブの豚が鳴いた。
「ぶひひっ」
緑髪アフロの豚が吹いた。
「ぶふーぅ……」
青髪ストレートの豚が呆れた。
それぞれの髪は、おじさんの体に巻き付いている。へたりこんだおじさんの足下にはズラが転がっており、おじさんはバーコード禿であった。
「あんだよ、結局、オラをどうしようってんだ!」
半ばやけっぱちに叫ぶおじさん。
豚達はおじさんをにらむと、自在に動く髪の毛でおじさんを切り刻むのであった。
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「牧場がバスターピッグの群れに襲われる未来を予知したよ!」
逢見・賢一(大学生エクスブレイン・dn0099)が説明を始めた。
深夜、バスターピッグの群れが、牧場へやってくる。放っておけば、早朝に酪農家のおじさんが襲われてしまうから、そうなる前に、群れをすべて灼滅してほしい。
深夜に牧場に行けば、群れと接触できるよ。月の綺麗な夜だから、明かりの心配はしなくていい。人払いも必要ないよ。
豚達は皆、バスターライフルと鋼糸相当のサイキックを使ってくる。豚は全部で十二体。目立った個体はいない。豚は三種類居て、赤毛四匹がクラッシャー、緑髪四匹がジャマー、青髪四匹がスナイパーだよ。
敵の数は多いけど、それほど強くはないから、キミ達なら大丈夫!
それじゃ、よろしくね♪
参加者 | |
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![]() アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160) |
![]() 桜田・紋次郎(懶・d04712) |
![]() リーファ・エア(夢追い人・d07755) |
![]() 戯・久遠(悠遠の求道者・d12214) |
![]() 蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175) |
![]() 西園寺・めりる(お花の道化師・d24319) |
![]() 切姫・夜架(高校生殺人鬼・d29665) |
![]() 天王寺・ミルク(ホルスタイン・d30428) |
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深夜。
綺麗な月明かりが、草原に点々と伏している牛達を優しく照らしていた。
「んもぉお~~~~~~~~」
一頭のホルスタインが鳴いた。これは人造灼滅者である天王寺・ミルク(ホルスタイン・d30428)のダークネス形態である。本人はすっかり牛になりきっており、美味しそうに草を食べている。
その背中に、普通よりもふた周りほどデカい猫が気持ちよさそうに寝そべっていた。
桜田・紋次郎(懶・d04712)は、デカい猫をもふもふしつつ、牛達を眺めた。
(「酪農家に何ぞありゃ、牧場の牛共が困るだろうが」)
もふもふ。
(「蛇原はメインクーンか」)
もふもふ。
(「……俺も」)
紋次郎の姿が消えた。と思ったら、ミルクの背に毛長のデカい猫が飛び乗った。紋次郎の猫変身である。紋次郎はメインクーンの背に顎を乗せると、リラックスして戦いの時を待った。
「のどかなところですねー……」
西園寺・めりる(お花の道化師・d24319)が、満天の星空の下で眠る牛(とデカい猫)達を眺めながら言った。手に持ったランプは、やさしく、暖かな光を灯している。
この光に吸い寄せられたのだろうか。
豚の鳴く声が、遠くから徐々に近づいてくるのが分かった。
「さて、やってみるか」
戦いに備えて闘気を練っていた戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)が、一歩前に出た。
「武装瞬纏」
その身体が、淡く輝く紺青のオーラに包まれる。
久遠の隣に、リーファ・エア(夢追い人・d07755)が並び立った。
「風よ此処に」
翡翠色の暴風が、オーラとなってリーファを包みこむ。
「ちょっとだけお洒落? なブタさんこんばんは」
リーファが何の気負いもない笑みを見せた。
豚達は二十メートル先で歩みを止めた。
ボブ、モヒカン、アフロ、お下げ、ストレート、ちょんまげ――などなど、多彩なズラをかぶった豚達が、灼滅者達を睨む。
「ブャッハー!」
赤モヒカンが叫んだ。
直後、豚達の髪の毛が一斉に伸び、灼滅者達に迫った。
「わっ、すごい量……!」
驚いている間に、リーファは赤と緑の髪の毛でぐるぐる巻きにされてしまった。他の皆も同様である。
「あら、きちんとお手入れしていますか?」
緑の毛に身体を縛られた切姫・夜架(高校生殺人鬼・d29665)が、茶化すように言った。ディフェンダー陣が体を張ってぐるぐる巻きになっている分、他のポジションはちょっとしか縛られずに済んでいる。
「ごわごわして硬いですし……何だか痛いですよ……?」
ギリギリと締め付けられても余裕の笑みを浮かべる夜架。
「ぶいぶいっ」
さらに青ツインテールの髪が伸び、夜架の身体を叩いたりくすぐったりした。身悶える夜架の身体に緑毛がジグザグッと食い込み、着痩せによって隠されていたスタイルの良さがぐっと露わになる。
「ぶひゃひゃっ」
夜架を縛り上げている緑バーコードがいやらしく笑った。
すぐさま、久遠の霊犬『風雪』が夜架に駆け寄り、癒しの眼差しを向けた。
緑毛がしゅるしゅるっと縮み、夜架は自由を取り戻す。
「ふふ、今度は私が縛ってあげましょう」
夜架の縛霊手からクモの巣状に結界が展開。緑毛達をからめ取った。電撃めいた霊力が走り、緑毛達を痺れさせる。
「猫、回復お願いします!」
「わん!」
リーファの霊犬『猫』が、浄霊眼でアルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)の束縛を解いた。
「貴様等を灼滅する……詫びるつもりは無い……!」
ローラーダッシュで加速するアルヴァレス。
「慣れない武器は使いたくないんですが……」
左足のローラーを逆回転させ、緑毛達の懐で高速スピンを展開。
暴風を伴った回し蹴りが、緑毛四匹を吹っ飛ばす。
「「「「ぶひぃぃぃぃぃっ!」」」」
メインクーンの足下に、緑お下げが転がった。
月明かりに伸びた猫の影が、スッ、と人影に形を変える。
続けて五線譜に形を変えると、影は緑お下げに巻き付き、夜空へと上った。
「ぶ? ぶうぅぅぅぅぅっ!」
二本のお下げが地に落ち、続いて緑毛のズラが丸々落ちた。
ズラをなくしたズラ豚は、蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)の影に抱かれたまま、夜空の塵と消えた。
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「ン゛モ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
「ぶひぃぃぃっ!」
豚が何やってるのか知らないけど、牧場に被害をもたらすのは看過できないですぅ――という思いを込めたミルクのタックルが緑アフロに炸裂。緑アフロを派手に転がした。
しかし、転んでもただでは起きない。緑アフロは金ダワシめいてちぢれた髪を伸ばし、ミルクに巻き付けた。すかさず青毛三本(頭に青毛が三本だけ生えてる豚)の毛が伸び、ミルクをくすぐりまくる。
「ン゛、ン゛モ゛ッモ゛ッモ゛ッ」
ミルクは笑い転げ、緑アフロはドヤ顔した。
そこへ、巨大なしゃぼん玉が飛んできた。
「ぶひひっ」
緑アフロはしゃぼん玉に映った自分の顔に吹いた。もっとよく見ようとして鼻っ面を突っ込んだらしゃぼん玉が割れた。
「ぶひぃぃぃっ!」
顔面にダメージを食らって悶絶する緑アフロ。
「ナノ!」
今度はしゃぼん玉の主――めりるのナノナノ『もこもこ』がドヤ顔した。
それにしても、緑髪達の髪の毛攻撃は強烈である。三匹に減ったとはいえ、灼滅者達を一瞬にしてぐるぐる巻きにしてしまった。
ぐるぐる巻きになった銀嶺が、髪の隙間から黒水晶の刀身を出し、祝福の言葉を唱える。
浄化の風がさっと吹き、前衛陣の束縛を緩めた。
「ぶいぶいっ」
緑ペガサス盛り(ソフトクリームみたいにモリモリっと盛られた髪型)が緑毛を増量しにかかる。
「効かんな。その程度か?」
久遠が紺青のオーラを破裂させ、迫り来る緑毛を全て相殺した。
「ぶうっ」
間髪入れずに、赤毛リーゼントの鋭い斬撃が久遠の背中を狙うが――。
「甘い」
豚の毛に束縛されているにも関わらず、黒い袴をなびかせながら、久遠は滑るような体捌きで避けた。久遠は豚達の攻撃を既に見切っていたのだ。
「我流・薫風」
めりるに縛霊手を向ける久遠。その指先に集まった霊力で、縛られためりるを射抜く。
パッと束縛を解いためりるが、死の魔法を詠唱した。
「頭冷やすですよー!」
「ぴぎぃぃっ!」
緑アフロが、緑バーコードが、緑ペガサス盛りが、一斉に凍り付いた。
「夜架さんもゴー!」
リーファの祭霊光が夜架を束縛を解く。
「では、チリチリにしてあげましょう」
夜架の魔導書から漏れた光が、風を伴って天を突いた。
一瞬の静寂の後、三匹の髪が一斉に爆発。三匹ともアフロになった。
「「「ぶひぃぃぃぃぃぃぃっ」」」
アイデンティティーの危機に瀕して泣き叫ぶ豚達。
その懐に、アルヴァレスが踏み込む。
「零距離獲った……切り刻む!」
全身を回転させ、鋭い斬撃を幾度となく浴びせるアルヴァレス。
緑アフロAが、悲鳴を上げて地を転がった。
「有難さん」
束縛を解いてくれた風雪の頭をなでつつ、燃えさかる炎のようなオーラを身に纏った紋次郎が、緑アフロAに歩み寄る。
豚の髪をおもむろに掴む紋次郎。
そのオーラにファイアブラッドの炎が宿った。
「沈んどけ」
「ぶきっ……!」
紋次郎の頭突きが炸裂。豚は倒れ、ズラがポロッと外れた。
延焼した炎がズラを焼き尽くすと同時に、豚も煤となって消えた。
●
「ンモッ、ンモッ、ンモッ、ンモッ!」
巨体をごろごろと転がしながら、ミルクは迫る髪の毛を避けまくった。豚の方が数が多いから耐えられるのか心配だ――と思っていたミルクだが、いざ実戦となれば、互角以上に渡り合っている。それは、ミルクが防具として呪装帯を選択したことが大きい。豚達は術式攻撃しかしてこない上に、呪装帯は術式回避である。だから簡単に避けられる。
「プッギィィーッ!」
緑アフロBが顔を真っ赤にして悔しがった。
「邪魔だ」
巨大な鉄塊のような刀身が、ドン、と大地に突き立った。
「ぶっ……?!」
振り返る緑アフロB。そこには、無敵斬艦刀を振り下ろした紋次郎と、真っ二つになった自分の胴体があった。緑アフロBのズラがポロッと落ち、肉体は塵と化して消えた。
(「斬りすぎた。後でなおすか」)
斬艦刀を引き抜きながら、地に作った裂け目を記憶する紋次郎であった。
「この間合い……もらいました!」
アルヴァレスの閃光百裂拳が炸裂。緑アフロCが夜空を舞い、落下する途中でズラが取れて死んだ。
緑髪四匹を失った豚達は、顔を真っ赤にして灼滅者達に襲いかかった。
が、しかし――。
「甘いですよー! この豚達の攻撃は簡単に見切れるですね、ミルクさん!」
めりるともこもこは、身体をくるくるさせながら飛び交う髪の毛を回避した。
「やはり、術式回避は正解でしたね、ミルクさん!」
返事がないので、めりるは一生懸命語りかけた。ふと見れば、耳に管理用のタグが――めりるは牧場の牛に話しかけてしまった!
「……毒を受けるですっ!」
恥ずかし紛れにヴェノムゲイルを放つめりる。赤毛四匹の顔が一斉に緑色になった。
「「「「ぶぅーん……!」」」」
豚達は攻撃の精度を上げようと頭をフル回転させて弾道を計算。神秘的な力によって、体力と命中率の回復を試みる。
計算の途中だが、銀嶺の紅蓮斬が赤ポニテに炸裂。銀嶺の傷が見る見るうちに癒えていった。
赤ポニテはバスターライフルを向けて即座に反撃。
しかし、その魔法光線は久遠によって握りつぶされた。
「そう簡単に俺の防御を抜けられると思わん事だ」
久遠は自分への攻撃は巧みな体捌きで避けつつ、味方への攻撃はその身を挺して受け止めた。さらに、何度目になるか分からないワイドガードを展開。鉄壁の守りにより、前衛陣の傷が深まることはなかった。
「回復は足りてますね。では」
リーファはエアシューズを逆回転させると、前線から離脱。入れ替わりに突撃してきた猫(リーファの霊犬です)が、斬魔刀を振って赤ポニテを跳ね上げた。
「ブピィィィッ!」
空高く舞い上がった赤ポニテは、後ろ滑りで接近するリーファを見た。
まるで重力を無視したかのようなジャンプを見せるリーファ。そこから身を捻って繰り出された跳び蹴りを、赤ポニテはうっとりと眺めた。
綺麗な月を背に、リーファと豚の影が交差する。
リーファはくるんと回転して華麗に着地。
その傍らに、赤ポニテのズラが落ちた。
赤ポニテは、流れ星のように光の尾を引きながら、地に触れる前に塵と消えた。
「とどめです」
「ピギィィィィッ!」
夜架の手から発する風の刃が、激しい渦となって赤リーゼントを空に舞い上げた。
「ン゛モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!」
突進するミルクのツノが赤モヒカンの胸を貫き、空に跳ね上げた。
「ナノッ!」
もこもこのしゃぼん玉が赤ボブを包み込み、ふわふわっと空に飛ばした。
赤ボブ、赤モヒカン、赤リーゼントの悲鳴がハーモニーを奏でながら夜空を舞う。
「おやすみなさいですーっ!」
めりるの指先から発射された魔法の矢が、しゃぼん玉に包まれた赤ボブを射抜いた。
しゃぼん玉が割れ、赤ボブのズラがポトリと落ちた。
その隣に、もう二つ、赤いズラが落ちた。
三匹の豚は地に落ちることなく、風に吹かれて塵と消えた。
●
「「「「ぶう?」」」」
一気に味方を失った青髪達が、顔を見合わせた。
「もしかして――」
リーファが除霊結界を展開。
「――逃げようとしてます?」
夜架も除霊結界を重ね、青髪を包囲。
「「「「ぶう」」」」
つぶらな瞳で見つめてくる青髪達。
「「だめです」」
リーファと夜架が縛霊手に力を込めると、電撃めいた霊力が結界を走り、青髪達をビリビリに痺れさせた。
「薙ぎ払う……吹き飛べ!」
直後、アルヴァレスの暴風を伴う強烈な回し蹴りが炸裂。四匹は空高く吹っ飛び、うち、三本毛とツインテールはズラと命を落とした。
「「ぶひぃぃぃぃーっ!」」
二手に分かれ、全力で遁走するストレートとちょんまげ。
ちょんまげの前に、無敵斬艦刀を振りかぶった紋次郎が立ちはだかった。
「逃がさん」
「ぷぎっ……!」
青ちょんまげは横薙ぎに真っ二つにされ、ずさーっと地を滑った。牧場の柵に激突すると、ズラがポロッと落ちて死んだ。
「ぶふっ、ぶふふっ」
青いストレートヘアをなびかせながら、豚が笑った。
振り返っても敵の姿はない。
しかし、自分の影に違和感。まるで、背中に猫が乗っているような。
見れば、実際、デカい猫が背中の上でぼんやり遠くを眺めていた。
「ぶひぶひっ」
抗議する青ストレートを、デカい猫は冷たい目で見下ろした。
そして、にゃー、と鳴いた。
「我流・間破光耀」
遠くで久遠の声。
銀嶺は人に姿を戻して、豚の背から飛び降りた。
と、同時に、紺青のオーラの弾丸が、豚を貫いた。
「ぴぎぃぃぃぃっ!」
ズラがぽろりと外れ、豚は塵と消えた。
銀嶺は、落ちたズラを拾ってみた。
それもまた、風に溶けて消えてしまった。
「どうやら終わったようだな」
久遠が残心しながら言った。
「ミルクさん、怪我とかありませんか?」
経験の少ないミルクを気遣うアルヴァレス。
話しかけられた牛は、返事をせずにそっぽを向いた。
「ふふふ、アルヴァレスさん、それはただの牛なのです!」
「な……!」
めりるに指摘されて絶句するアルヴァレス。確かに、耳にタグがついている。
「さあ、牧場を綺麗にして帰るですよー」
灼滅者達は、荒れた牧場を元通りになおした。
「んもぉおおおお」
ミルクが嬉しそうに鳴いた。
牧場の平和がこれで守れたのですぅ。
そんな気持ちを込めて、もう一度鳴くミルクであった。
作者:本山創助 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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