砂地に緑を

    作者:長谷部兼光

    ●緑化は善!
     観光客を大きなこぶのある背に乗せ、悠然と闊歩する駱駝。
     彼方で白波うつは日本海。
     見渡す限りの広大な砂原の中心で、せっせと砂地を耕し、若木を植えて回る妙なシルエットが一つ。
     2メートルを越える半裸の巨躯に、筋肉をこれでもかと過積載し、首から上がシマウマの大男。
    「育て~育て~すくすく育て~♪ そしてこの地を……」
     男は、如雨露片手に上機嫌で若木達に水を与える。
     あからさまにあからさまなので関わりたくないと、観光客達の大半はひそひそと話しながら、シマウマ頭のその男を遠巻きに見つめるだけだった。
     そんな中、怒り心頭と言った様子でゼブラの変態に近づく人物が一人。
    「あ、あ、あんた! ここで一体何をやっとるんじゃ!?」
    「貴様は……!? 何処からどう見ても現地の老人!」
     大げさにリアクションをしたものの、ゼブラ男は耄碌したか老人よと、再び若木に水を遣り始める。
    「一目見れば判るだろう。緑を!育んでいる!」
    「それが問題じゃと言っておる! あんた! ここを何処だとおもっとるんじゃ!?」
    「知っているよ! 鳥取砂丘だろう?」
     シマウマの男……鳥取砂丘ゼブラ怪人は、確かめるように砂丘全域を見回した。
    「見よ! この殺風景を! 春夏秋冬常に砂場のみ! 砂丘維持の為に除草している? 馬鹿を言うな! 世界的に砂漠の拡大が懸念され続けている中何たる傲慢な! ……緑だ! ここには緑が足りん! 故に……」
     ゼブラ怪人が懐から取り出したのは、植物の種がぎっしり入った麻袋。
     怪人が麻袋の中に手を突っ込み、大きな掌一杯に種子を鷲掴み、老人に見せ付ける。
    「ガイアパワーを略奪するついで、この砂丘全体を緑と命溢れる……目の保養と地球に優しい、爽やか~な風が良く似合う野っ原に変えてくれるわ!」
    「や……やめるんじゃあ!」
     老人の願い空しく、数多もの植物の種子は青空を舞い……砂地に散らばった。
     
    ●緑化は悪!
    「鳥取砂丘の緑化……しっくりこないかもしれませんが、これも立派なご当地名物の破壊であり、やってる事は、今まであったアフリカンご当地怪人によるガイアパワーの略奪行為に何一つ変わりありません」
     一見あべこべですけどね、と見嘉神・鏡司朗(高校生エクスブレイン・dn0239)は続ける。
    「鳥取砂丘ゼブラ怪人……緑を愛する男であると同時に、砂地しかない鳥取砂丘には何の愛着も持っていません。むしろ憎んですらいるでしょう。ですが鳥取砂丘は単なる砂地ではなく、れっきとした景勝地であり、鳥取県にとっては重要な観光資源」
     彼を放置する理由はありません。鏡司朗は断じた。
    「最速で安全に接触出来るタイミングは、怪人が懐に手をいれ、種の詰まった麻袋を取り出す直前になります。彼に種を撒かせないでください。既に植えられた若木は後で引っこ抜けば良いですが、砂地に撒かれた種の回収は至難ですからね」
     観光客はそれなりにいるが、軽く人払いをすれば戦闘中に乱入してくる事もないだろう。
     老人は体力も持久力も老人だ。
     一人で逃げられないことも無いが、安全な場所まで逃げるには時間が掛かるかもしれない。
     鳥取砂丘ゼブラ怪人のポジションはディフェンダー。
     クルセイドソード、咎人の大鎌、ご当地ヒーロー、そしてシャウトと同性質のサイキックを使用する。
    「頭も、体も、ガチガチですねぇ。このまま戦うと苦戦するかもしれません。ですので……」
     戦闘と同時に舌戦も繰り広げてみてください。鏡司朗はそう言った。
    「緑は善、砂地は悪。そんな彼の主義主張と真っ向から対立するんです。鳥取砂丘を徹底的に擁護して、むしろ俺達は鳥取砂丘が好きすぎて闇堕ちしたご当地怪人なんだぜ!!」
     ……と言うくらいの情熱をもって相対すれば、論戦を重ねるうちに鳥取砂丘ゼブラ怪人の頭に血が昇り、回復もおろそかになり……。
    「そして一分の隙が生じる事も厭わずに、ポジションをクラッシャーに変更し、攻撃一辺倒になります」
     逆に、彼に同調する言動を繰り返した場合、どうなるのかは予測がつかなくなる。
     ……ディフェンダー、クラッシャー。
     ゼブラ怪人がどちらのポジションでも撃破は可能だ。
     どのような戦術を取るのかは実際に戦場へ赴く灼滅者の手に委ねられる。
    「実際のところ、怪人の主張にも一理あります。但し、それは時と場所をきちんと選びさえすれば、の話です。鳥取砂丘の緑化阻止……どうかお願いします」


    参加者
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)
    冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)
    端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)
    月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)
    シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)

    ■リプレイ

    ●体感気温高し
     初秋の鳥取砂丘を撫でるように巡る風はすっかり涼気をはらみ、ほんの一月前の酷暑が最早懐かしい。
     が、そんな砂原のど真ん中。
     上半身は素肌に上着を一枚。下半身は白黒色のビキニパンツ一丁、極め付けに首から上はシマウマと、どうあってもお近づきになりたくない類の出で立ちである鳥取砂丘ゼブラ怪人の一挙手一投足は遠目から見ても暑い。暑苦しい。
     真夏の嫌な記憶だけをわざわざ選りすぐって叩きつけて来るかのような挙動のゼブラ怪人が、老人に熱血で持論を講釈し、そして麻袋を取り出そうとしたその瞬間、晴天だったはずの陽が陰る。
     何事かとゼブラ怪人が上向いた刹那、その眼が映したのは、太陽を背負い、拳に焔のオーラを灯す冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)の姿。
    「おらぁ!」
    「ぬぅおぁ!? 火気は! 厳禁である!」
     種諸共灼きつくそうとするが如く燃え盛る翼の炎拳に、慌てて対応しようとしたゼブラ怪人は、思わず懐から取り出そうとした麻袋をそのまま中空に放りだしてしまう。
     口の閉まった麻袋はくるくると宙を舞い、放物線の頂点に達した後、北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)の手中に収まった。
    「確かに砂漠化は防がないといけないが、それをわざわざ鳥取砂丘でやらなくても良いだろう?」
     言いながら、葉月はキャッチした麻袋をゼブラ怪人に見せ付ける。
    「ああっ! 近所のホームセンターで揃えた種がっ!」
     なんて嫌な自産自消だろう。
    「じいさん、大丈夫か?安全なところまで運ぶから、ちょっと辛抱してくれな」
    「なに? 何? 何じゃ!?」
     わめくゼブラ怪人を尻目に、葉月は混乱する老人を怪力無双で担ぎ上げ、サイキックが及ばないであろう安全な領域まで退避させる。
     奇異の目で怪人の様子を見ていた周囲の一般人達も、徐々にその場から離れていく。
     元々、怪人と係わり合いになりたくないと思っていた所に灼滅者が殺界を形成し、留まる理由が完全に無くなったのだろう。
     怪人の変態性が人払いに一役買ったと考えると、手放しに喜べない気もするが、とにかく、一般人が戦闘に巻き込まれないのは何よりではある。
    「全く、あやつを見てると頭が痛うなってきよる……」
     大きな溜息を吐いた神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)の頭を過ぎったのは、必要以上にテカったマッシヴな巨躯を自信に溢れた表情で飾り立てた、常人より性格が大分アレ……個性的な弟の姿。
    「そういえば、ワタシこういう人のこと、ニホンゴでなんて言うか知ってるデスよ!ノーキンっていうデスよね☆」
     そう言うフレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)の陽気な声は、怪人の背後から聴こえた。
    「迷惑やめるデース!」
     声に応じて怪人が振り返ってももう遅い。
     フレナの姿はもう既に無く、あるのは舞い上がった砂埃と、怪人が足取りを鈍らせるほどの斬撃を負った事実と、そして砂埃の中から現れたウイングキャット『コンゴー』の肉球。
    「此処は日本の地質百選にも選ばれておる名勝じゃというに、本当に脳味噌まで筋肉という程度の知能じゃな」
     怪人が肉球パンチで怯んだ隙を見逃さず、美沙が優雅な動作で扇子をあおげば、砂原に出現するのは渦巻く風の刃。
     嫌な記憶を呼び起こしてくれたものだと、それを怪人目掛けて放つ。
     フレナの足止めと神薙刃のホーミング能力が相乗して見事命中したが、怪人は不敵に笑った。
    「ククク。そう褒めるな。照れるではないかぁ!」
     白黒の頬を赤らめ、返礼とばかりにゼブラ怪人は懐から長大な木剣を取り出すと、翼を標的に振りかぶる。
    「いや、絶対に褒めてないから!」
     筋肉脳味噌がはじき出した結論に城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)は突っ込みながらも、寸前のタイミングで木剣を受け止める。
     見た目も質感も何の変哲も無い木製……むしろ多少加工した程度の太い枝にすぎないが、受けたダメージは本物だ。
     存在そのものが突っ込みどころしかない相手だが、やはり油断ならないと言うべきか。
     予記は長丁場を見越して巨大なオーラの法陣を前衛に展開し、ナノナノ『有嬉』はしゃぼん玉で攻撃すると同時に治癒力を高める。
    「怪人の野望、ボクたちが阻止させてもらうよっ!」


    ●考えた脳筋
     堅い。
     老人を避難させた葉月も合流し全員で攻撃を加えているものの、ゼブラ怪人は未だ平然としている。
     スコティッシュフォールドの毛並みを風に揺らしながら前に出たのはウィングキャット『たれみみ』。
    「頑張ろう、ね、たれみみちゃん」
     その主、端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)がエアシューズで砂丘を深く踏み込むと、たれみみは肯定するように一鳴きした。
    「なんでもかんでも緑化って、強引にやるのは良くない、よ」
     砂地に確かな足跡を残し、
    「鬼さん、こちら……っ!」
     うさぎはゼブラ怪人を殴り抜き、その直後、縛霊手は網状の霊力を放射し怪人を絡めとり、たれみみの猫魔法が捕縛を更に強める。
    「ならん! 押して駄目なら更に押す! ゴリ押しにゴリ押しを重ねるのが我が信条よ!」
     清々しいまでのマッスルだ。
     鎌は鎌でも農業器具丸出しの形状の大型草刈鎌をゼブラ怪人が振るうと、目にも優しい緑色の波動が後衛を襲う。
     うさぎは月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)に迫るそれの間に割って入り、身を挺して庇う。
     目には優しいが、ダメージ的には全然優しくない。
    (「……緑化良いと思います……です……!」)
     噤の本心としては緑化に賛成だった。
    (「緑増やしたいです……とてもいいことなのですが……」)
     ふるふる、と噤は頭を振る。
     今回は作戦上怪人に対して否定路線で行くと事前に話し合ったし、いかなる主張もケースバイケース。
    「頑張ります……です!」
     よりにもよって鳥取砂丘を砂漠化しようとするゼブラ怪人は、倒さねばならない。
     尾をぴんと立て、噤はうさぎの全身を帯で覆う。
    「ん! ん~?」
     そんな噤をみて怪人は何かが引っかったのか、僅かの間首を傾げたものの、そこは脳味噌が筋肉。
     まあ良いかとあっさり思考を放棄すると、何故だか誇示するようにポージングした。まだ全然平気という意思表示でもあるのだろう。
    「すごく……シマウマです……です!」
    「シマウマと言うよりむしろロバですね」
     噤が呟いたように一応は辛うじて僅かにシマウマなのだが、シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)は挑発を目的に鳥取砂丘ゼブラ怪人をあえてロバと形容した。
    「そもそも、日本に『砂漠』はありません。砂漠と砂丘は定義が違います」
     シャノンのクロスグレイブの先端が開き、無機質な銃口がゼブラ怪人に向けられた。
     きらり、と銃口は陽の光を反射する。
    「シマウマとロバを間違えるようなものですよ。判りますか、ロバ怪人さん?」
     十字架から放たれた砲弾は生命活動ごと氷結するが如くゼブラ怪人を穿つ。
     蓄積したダメージからか怪人は数秒膝を突いたものの、なんの! とすぐに立ち上がる。
    「ロバと呼びたければ呼べば良い。ゼブロイドなんて言う交雑種も普通に居るしな! 実際ロバとは近縁だ……いや待て。ロバとシマウマが近しいと言う事はつまり、砂漠イコール砂丘と言う等式が! 成り! 立つ!」
    「成り立たないよ!」
     すかさず予記が突っ込んだ。
    『脳筋』『ロバ』。
     どちらの単語にもゼブラ怪人は寛容を通り越して無頓着に等しい。
     緑と砂。
     怪人を大きく揺さぶるためにはこの2つの話題しかない。
     ……灼滅者達はふと、ある恐ろしい事実に至る。
     自称・緑を愛するこの男の脳内は、
     こちらの想定を大きく超えるレベルで、
     一面のお花畑、なのだろう。

    ●緑砂舌戦
     固い。
     硬い。
     カッチコチだ。
     こちら側は怪人のエンチャントを破壊する手段が豊富であり、対して怪人側は単体ブレイク手段しか有さない事、灼滅者達の前衛に厚い陣形配置のお陰で、列サイキックによるバッドステータス付与が芳しくない事等、目一杯の不利要素を背負っていても尚、目眩のするような防御力だ。
     確かにディフェンダーのままだと、難儀する。
     これ以上の長期戦を避けるためには、舌戦にてゼブラ怪人のポジション変更を誘導するより他無い。
    「鳥取砂丘って、日本らしくない砂漠の風景が愛されてるんだと思う、の。緑化しちゃったら、ただのどこにでもあるような緑の風景になって、観光客が減ってしまうんじゃない、かなぁ? ご当地パワーもきっと少なくなってしまう、の」
    「鳥取砂丘怪人なのに砂丘がなくなっちゃっていいんです……か……です! この光景を見にくるお客さんもたくさんいるです……!」
     うさぎの主張に、噤が続く。鳥取砂丘を擁護するその態度が気に入らないのか、ゼブラ怪人は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
    「そんなものは知らーん! 大体、出雲の大社や広島のドームを差し置いて砂丘に来る人間なんぞ極少数よ! ご当地パワー搾取ついでに砂地を緑に変えたところで誰も何も言わん!」
    「ご当地愛が欠片も無ぇ。アフリカンご当地怪人って奴は本当にご当地怪人の風上にも置けねぇな。てめぇみてぇな身勝手な怪人相手なら遠慮はいらねぇってもんだ!」
     怪人の言動に呆れ果てた葉月も舌戦に加わる。
    「砂丘の近くで栽培されているらっきょうや長芋は名産品としても有名なんだ。砂地だからこそ、良い作物が取れるんだよ! ……砂丘は鳥取の貴重な観光資源! それをディスった上に荒らしてんじゃねぇ!」
     草の生えた砂の山なんて誰が見に来るんだ?
     葉月がそう言い放つ。
    「ったく、分かってねぇなぁ……いいか、砂丘だぜ、砂丘。砂の丘なんだって。緑だらけじゃもう砂丘じゃねぇしその上で砂丘の怪人名乗る気かよ、名前詐欺じゃねぇか……!」
     葉月の言に、翼も同調する。
    「ってーか、砂漠と砂丘は別物、区別ぐらいちゃんとつけろよなー。砂丘特有の植物とかもあんのに、全否定で生態系ぶっ壊す気かっつーの」
    「生態系? 緑なら何でも良いではないか! 大事なのは質より! 量だ!」
    「それが極論だっつってんだろ!」
    「HAHAHA! なんかとってもお馬鹿サンな怪人デース! お馬鹿サンなだけにウマなんデスかねー? シカっぽいところはないデスか?」
     フレナが至極アメリカンな調子で肩を竦めたが、
    「くっ! 痛いところを突いて来る! 確かに私は鹿とは縁が無い!」
     ゼブラ怪人は妙な所で大真面目だった。何故だ。
    「『砂漠』で問題なのは、植物とか生えてこない不毛なところデース。『砂丘』は違うデスよ? 動物も植物もあるデスね。砂漠とは見た目似てても、まったく別物デース! You understand? お馬鹿サンな提案はNo thank you!」
     合点がいかぬと怪人は首をかしげた。
    「もしや、砂丘植物をご存じないですか?」
     シャノンはゼブラ怪人に訊く。
     緑を愛すると自称する割りには無知が過ぎる気もするが、元より砂地に興味が無いなら、それに関わる知識も持ち合わせてなくて当然なのかもしれない。
    「砂丘があるからこそ保たれている生態系もあるんだ! ……多分。一面を緑にしちゃうなんて、生態系を乱す悪だよっ!」
     予記がズバッと怪人を指差し、
    「貴方のやろうとしているのはこの砂丘独自の生態系を、他所からの外来種で潰し、台無しにする立派な自然破壊です。まあ、地方の独自文化を外来のもので台無しにするのは貴方達アフリカンご当地怪人の十八番ですが」
     シャノンの正論に怪人は地団駄を踏んだ。
     上手い具合に反論が浮かばないのだろう。
    「そもそもここは国の天然記念物じゃ。その意味するところを理解できぬのか? それに、どうせ経済に与える影響なぞ考えてもおらぬのじゃろう? よくもまぁその程度の頭で……」
     怪人が務まるものじゃと、美沙は手にした扇子で自身の頭を数度軽く小突く。
    「なるほどそうか! つまり……日本国、ひいては政府が諸悪の根源だと?」
     この男、頭がお花畑すぎやしないだろうか。
    「緑を愛する等と喧伝しておるようじゃが、結局は身勝手な主張を押し付けるだけの稚拙なもの……己がどれだけ恥知らずであるかすら分からぬ無能は、地獄で罪の程を思い知るがよかろう」

    「ぐ~ぬ~ぬ! ずるいぞ! 8人で寄って集って言葉の刃で滅多切りとは! 多勢に無勢ではないか!」
    「量は正義、なんでしょ?」
     予記がにやりと笑った。
    「返す言葉がまるっきり見つからん! もういい。こうなったら力で無理やりねじ伏せてぐふぅ!?」
     作戦通りだ。
     頭に血が昇りポジションを変更しようとする怪人を黙って見ている道理は無い。
     ゼブラ怪人は、物理的にも滅多打ちにされた。

    ●閃いた脳筋 
    「そうか! 判ったぞ! 先ほど感じた違和感の正体が! 貴様等、砂地は正しいと、何らかの事情で意に反し『言わされている』……のだな!?」 
     あれから灼滅者達はゼブラ怪人をしこたま攻撃したが、その際、頭の打ち所が良かったのだろう。
     ゼブラ怪人にしては天才的な閃きだ。
     ……結局、砂丘を擁護するに至った大元の原因は眼前の怪人なのだが。
     クラッシャーに向かう鎌乱舞をディフェンダー陣が防御する。
     フレナとうさぎが携えるセイクリッドソードが浄化の風を吹き起こし、細やかな砂粒達がさらさらと舞った。
     コンゴーとたれみみの肉球パンチが怪人の両目にめり込んで、体勢を崩した怪人を予記がご当地ダイナミックで砂地に叩き込み、有嬉は噤を癒し、噤は螺穿の槍で怪人を穿つ。
     続いて、
    「緑を愛するとか聞いて呆れるぜ。人が大事にしてるもん自分が気にくわないから変える! なんてよ」
    「価値を見定める目を持たぬ痴れ者め。大人しく冥府へと旅立つがよい!」
     帯雷した翼の左拳がガラ空きになった怪人のボディを抉り、痕を残し、出来た傷痕を目印に美沙の繰る帯が寸分違わずそこを貫く。
    「この国独自の文化と自然を守るため、断固排除させていただきます」
     獣と植物が混在した異形の怪物が砂丘を駆け、シャノンがマテリアルロッドを叩きつける。
     一拍後、怪人に流し込まれた魔力が大きな爆発を引き起こし砂埃巻き上がる中、一条の光が超高速でそれに突っ込む。
     強い衝撃音。
     砂の煙幕が晴れた後。
    「緑化ならサハラとかカラハリとか、まずそっちをどうにかするべきだったんだよ、お前は」
     葉月の、バベルブレイカー。
     その先端は完全に怪人の急所を貫いていた。
    「サイキックアブソーバーさえ無ければ、その悲願も……アフリカンパンサー様! せめて我が奪取したご当地パワーを……!」
     そう言い遺し、鳥取砂丘ゼブラ怪人の筋肉は暑苦しく爆ぜた。

    「これで鳥取砂丘は守られました……です!」
     噤の言葉に皆が頷き、折角だからと灼滅者達は梨を片手に砂丘観光を……。
    「ところで」
    「うん?」
    「引っこ抜いた木、どうしよう?」
    「……あっ」
     存分に楽しんだ。

    作者:長谷部兼光 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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