魔法少女O-SAN

    作者:空白革命

    ●魔法少女オッサンは少女なのかオッサンなのかはっきりすべき
     なんかおっさんが立っていた。
     向かい側にはなんかフリー記者みたいな二人組がカメラ片手に立っている。
    「こ、これは……!」
    「知っているのか兄弟!」
    「聞いたことがある。この家に昔住んでいたオッサンは魔法少女が三度の飯より大好きで実際魔法少女ポスターの前に正座して白米三倍はいけたと言われているが食費を削り過ぎた生活がたたってなんか死んだという悲しい事件が起きたがそれとは全く関係ない流れで全然別人のオッサンが旧オッサンの無念を晴らすべく奇行を続けているという都市伝説が――」
    「長ぇよ! そして前半関係ねえのかよ!」
    「ああ関係ない。だが気を付けろ、これが本当だとすればこのオッサンは」
    『フンヌラバアアアアアッ!!』
     突如としてオッサンの髪が逆立ちピンクのシャランラしたオーラが沸き上がる。
     記者兄弟がビビっている間にオッサンは微妙に宙に浮き、ピチピチのジーンズとちょっと腹の出た(へそチラ)シャツを光の粒子に分解。トランクス一枚(サービスカット)になって腕を広げながらクルクル回るとギリギリのミニスカ(パンチラ)とへそだしのフリルシャツ(へそチラ)を纏い頭上にキラキラと現れた魔法の杖(おもちゃ屋さんでむかし五千八百円で売っていたやつ)を掴むと最後にキュピーンとウィンクして片足を上げる感じのチアリーダーみたいなポーズをとった。
    『フヌゥゥン!!』
     周囲に複雑な魔方陣が出現。なんだか知らないが大量の使い魔的モンスターと共に炎の弾が雨の様に降ってくる。
     哀れ、記者兄弟! 彼らは跡形も無くころころされてしまったのだった!
     
    ●誰だこんなうわさ流したやつは
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は死んだ目でいつもの『このペン50円で買わない?』のポーズをとっていた。
    「いやなもんみたよ……いやなもんを……」
     なんでも、都市伝説が実体化して一般人に被害が(命以上の実害が)出ているという。
    「こんなの放っておいたら絶対に良くないよ。その……よくないよ!」
     
     実体化都市伝説。
     いわゆる、人のウワサが形になったお化けである。
     霊魂とか成仏とか前世とかそういう抒情的なモンはないが、その分色々割り切って相手できる敵でもある。
    「これは10体ほどの使い魔的な何か(ちいさいオッサン)を放って一緒に戦わせる性質があるの。本人は炎の雨とか雷とかハート型のビームとか物理攻撃とか、そういうのを主体にして戦うみたいだね」
     要するに戦って倒せという話である。ボス格である魔法少女オッサンに抑えが利きづらそうと言う特徴はあるが、そこを覗けば割と単純なバトル展開になるだろう。
    「こんな都市伝説を野放しにしておくわけにはいかないよ。みんな、頼んだからね!」


    参加者
    ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)
    エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)
    白麗・久音(解体少女・d04360)
    フーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767)
    桜海老・亘(よこしまなる聖職者・d08848)
    泉人・氷花(小さな暗殺者・d09747)

    ■リプレイ

    ●今の内にチャーミングな美少女とか想像しといてね!
     風凪ぐ砂利の道。
     フーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767)は風に揺れる後ろ髪を見捨て、遠いどこかを見つめた。
     背負った弓は大きく、的当てや馬上撃ちのそれでは決してない。
     人殺しのための。否、化物殺しのための弓であった。
    「我が身はただ、復讐を成し遂げるだけの混血鬼。我が母の仇を討つためだけに身を堕とした闇の騎兵。故に私はただ敵を撃つ。復讐を遂げるだけの力を、敵を屠る術を、そし――」
     ぺらり、と手元の資料12ページ『魔法少女おっさんの図』が風に開かれた。
    「………………」
     背後でかかっていた何やらシリアスで西部劇風のBGMがやんだ。
     無言で目元を抑えるフーリエ。
     横から資料(いらいのしおり)を覗き込む浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)。
    「えっと、魔法少女おじさん……おじさんでいいんだよね? こういうの好きなおじさんって、いるんだね……」
     まじまじとスケッチを見つめる菜月の横で、ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)は丸太の如き腕を組んだ。
    「何かを極めんとするものは、別の何かを犠牲にする。少し、分かる気がする……」
    「そんな真面目な話か……もっと、こう……『どうしてこうなった』と言うべきじゃ、ないか?」
     黒いフードパーカーの奥の、顔ごと隠すかのような長い前髪の更に奥。白麗・久音(解体少女・d04360)は赤い目をきゅっと瞑った。
    「夢を壊す汚物は、解体(ばら)して清算してやる」
    「あ、あのー」
     このタイミングで出てくるのがちょっとやりづらいのか、全身にちょっとふりふりとつけた泉人・氷花(小さな暗殺者・d09747)が控えめながら自己主張をしていた。
    「わたしなりに、魔法少女(?)みたいなふうに、してみたんですけど……ステッキはダンボールですし」
     もじもじとダンボールのステッキもどきをいじる氷花。
     そんな彼女を桜海老・亘(よこしまなる聖職者・d08848)は満面の笑みで、そして慈しむ目で見つめていた。
    「いいんですよ、それでいいんですよ。凄く微笑ましいです」
    「本当ですか?」
    「じゃあ、コレも!?」
     ドヤ顔(昨今この表現が流行っている気がする)でセクシーポーズ(?)をとるエルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)。魔法少女と言うには、セーラー服なんちゃら戦士の末期スタイルに近かったし、それ以上に『狙った感じ』のファミレス制服に近かった。が。
    「いいんです! グリーンです!」
     亘は親指を立てて笑顔を輝かせた。
    「と言うことは、ここで真打――」
     多分このタイミングを待っていたのであろう土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)が、颯爽と自己アピールを始めた。
     頭上で回転するカードがバスターライフルへと代わり、くるくると回転する巨大なライフルを両手でキャッチ。
    「地球が赦そうとも土星が許さない。魔砲少女マジカル☆サターン参上DEATH!」
    「ブラーヴァ!」
     亘は歓喜の歌と共に手を叩いた。
    「今日は魔法少女が一杯だなあ。きっと魔法少女大戦みたいなんだろうなあ……楽しみだなあ!」
     喜色満面の彼にツッコミを入れてくれる親切な人は、残念ながらこの中には居なかった。
     それがあのような悲劇を招こうとは……。

    ●何かの罰ゲーム
     暗闇である。
     一軒家のリビングと思しき、広い空間である。
     ソファに挟まれた低型テーブルの上に、ひらりひらりとリボンが揺れていた。
    「わーい魔法少女はっけーん!」
     亘はキャリバーから降り、一目散に『本人』へと飛び付いていく。
     (余談だが、室内でもキャリバーさんは問題なく、そして割と派手に戦えるので置いてくる必要はないのだが、それを咎める必要もないのが今回の状況というものである)
     コアラよろしくがしりと抱き着く亘。
    「この感触この香り、そう女の子特有の汗と加齢臭そして骨ばった筋肉と太い体毛ってこれオッサンだあああああああああああああああ!!」
     ゴパァといって血を吐く亘。
     魔法少女オッサンはそんな彼の頭を鷲掴みにして吊上げると、血走った眼で言った。
    『イタズラする子はおしおきだゾ☆』
    「怖ええええええ!!」
     白目をむいて気絶する亘。
     そんな彼をどさりと床におとしつつ、魔法少女オッサンは大量の使い魔(ちいさいオッサン)を召喚した。
    「くるよ、みんな気を付けてねっ!」
     菜月は虹色の水晶を摘まんで組みひもを解くと、カード型の護符を扇状に開く。
     まるで扇子で薙ぐように小さいオッサン達を振り払い、たんたんと足踏みをした。
    「準備はできたよ、みんな」
    「分かった。雑魚は、任せて」
     久音もまたナイフを取り出すと、ぞわりぞわりと影を自らに纏わせる。下から上へと撫でるように抜けていく影業。撫でた所から順番に、服装がクールな魔導スタイルへと変わって行った。
     魔法少女服と呼ぶには若干シャープだが、ナイフのイメージには良く合っている筈だ。
    「僕のサイキックは禍々しいけど、これくらいはいいよね。でもおっさんはだめだ」
     ナイフを大きく払い、毒の風を巻き起こす久音。
     苦しみに呻く小さいオッサン達を前に、エルファシアが高く飛び上がった。
    「りりかるまじかるー、運命の力よ、私に力をちょうだい!」
     てーれってれーと自分でBGMを鼻歌しつつ、ちいさいオッサンをぶん殴る。きりもみ回転しながら窓を突き破って吹っ飛んでいくちいさいオッサン。
     力任せと言うか言ったもん勝ちというか、いつの時代もアウトローというもんはあるものである。関節技オンリーの魔法少女とか、撲殺オンリーとか、そういう。
     だが今はあくまで実体化都市伝説との戦い。四の五の言ってられる状況ではないのだ。一応!
    「勝負ですよ魔法少女オッサン!」
     璃理はきゅぴーんと目を光らせると、メモカ状の護符を魔法少女オッサンへと連続投擲。
    「真のヒロインである魔砲少女があなたを天へと消し去ってあげます!」
     オッサンはそれを素手で握り潰すと、筋肉を熱く膨張させた。
    「甘いわぁ! 我が可愛さの前に眠りなど皆無。貴様を永遠の眠りに落としてくれよう!」
     どう間違っても魔法少女が言うセリフではない。
     が。
    「その意気や、よし!」
     ジャックの腹筋が漲った。
     上腕二頭筋も漲った。
     漲り過ぎて首が隠れんばかりに身体が膨張し、着ていた服が内側から弾けて飛ぶ。
     代わりに、大太鼓と祭囃子による熱いBGMが流れだし、ジャックの全身を新たなコスチュームが包んで行く。
     ――漲る大臀筋、翻るフリルスカート(ソイヤッ)!
     ――盛り上がる大胸筋、靡く虹色リボン(ソイヤッ)!
     宙に微妙に浮いたまま、両腕を広げてゆっくりと回転するジャック。
     割れに割れた腹筋をあえて見せ(ソイヤッ)、ハート型のバトルオーラを放ちながらダブルバイセップスのポーズをとった。
     そしてトドメの。
     ――射殺すようなウィンク(ソーイヤッハァッ)!
    「魔法少女オッサン、今日がお前の命日だ」
    「ぎゃあああああああああああ!!」
     丁度真下に顔があった亘が、目を覚ました途端再度気絶した。
    「おおおおおじさがんが一杯で怖いよう!」
    「うっ、気分が……気分が悪くなってきました……」
     涙目で首を降る菜月。
     氷花も口元を抑えて顔を青くしていた。
     そんな彼女の背中を丸太の如き腕で撫でてやるジャック(ダイナマイト魔法少女スタイル)。
    「敵のプレッシャーにあてられたか。流石は『極めし者』の理想形」
    「明らかに原因の一端が貴様にあるが……」
     ツッコミを入れようとして、途中キャンセルするフーリエ。
     ここで『じゃあお前がやってみろよ』的展開になるのは御免だった。誰しも壊したくないパーソナリティというのはあるものである。
    「さて……この一矢に我が矜持を宿し」
     何事も無かったかのように弓に矢を番え、大きく満たし、指を離す。
    「穿ち砕け!」
    『オオオオオオオオッ!』
     強烈な威力をもった矢が連続で投射される。
     それを、魔法少女オッサンは歯で受け止め、筋肉で止め、そして矢をぼきりと噛み砕いた。
    『もう……』
     口の両端から矢の両端が零れ落ちる。その際口内を切ったのか、だらだらと血が流れていた。
     歯を食いしばり、オーラを全身から噴出させる。
    『おこったんだからぁ!』
    「いいだろう、来い!」
     歴戦の武将かってくらいに激戦を繰り広げるフーリエと魔法少女オッサン。
     その様子を、氷花はハイライトの消えた目で見つめていた。
     両目にはありありと、『なんでティアーズリッパー持ってきちゃったんだろう』と書かれていたという。

     さて。
     お目汚しならぬ脳汚しが如き展開が続く対魔法少女オッサン戦。
     亘の精神が折れに折れ、何の脈絡も無く魔法少女的衣装を着こんで部屋の壁に背を預け、頬に涙の跡を作りながらハイライトの消えた目で『汚されちゃった、僕、汚されちゃったよ……』とか呟いていた頃のことである。
    「この状況、なんとかしなきゃ……気持ち悪くても、負けられません!」
     口元を拭って立ち上がる氷花。
     だんぼるすてっきを天に掲げると、輝きで自らを包んだ。
    「魔法少女・氷花18(えいてぃーん)、行きます!」
     晴れた光より現れたのは、どこか肉感のある18歳の美女であった。手作りで縫合の緩い魔法少女服はところどころ破れ、彼女の身の丈にあったサイズだけ残る。
     もはやセクシーを通り越してエロに近かった。
     氷花18というより氷花R18という感じだった。
    「これだ……これを待っていたんだよ、僕は!」
     感涙の滝を流しつつ、亘がひとりスタンディングオーベーション。
    「いきます、ティアーズリッパー!」
     だんぼるステッキから日本刀を抜き放つと、目にもとまらぬ高速移動でオッサンの背後、ソファーの裏側へ現れる。
     一瞬遅れて胸元が服ごと切り裂かれるオッサン。あと真っ二つになるソファ。
    『ぐぬうう……やりおる』
     片目をつぶって唸るオッサン。しかし氷花もまた、肩口に大きな裂傷を負っていた。
    「流石にスペックは高いですか……亘さん、回復を」
    「わわっ、たいへん! 大丈夫ですか! すぐに回復しますね!」
     にこにこしながら限界まで低い姿勢でヒーリングライトする亘。
     その姿は満員電車の中で落とした携帯を拾うふりをしてシャッターボタンを押すオッサンにどこか似ていた。フラッシュたくところまで含めて。
    「あなたに魔法少女を名乗る資格はありません」
    「言われているな。これが『犠牲』か……魔法少女おっさんよ」
     マネしてチアガールのようなポーズをとるジャック。血を吐いて気絶する亘。
    「あなたにもありません!」
    「ばかな、『なんでもあり』と言ったはずだ」
     ジャックは足踏みによって大震撃を起こすと、揺れる家をそのままに炎の膝蹴りを叩き込んだ。
    「うおおおおおおお!」
    『ハアアアアアアア!』
     ハイキックで応じる魔法少女オッサン。
     翻る二つのスカート。よろめく氷花。
    「み、みんなしっかり!」
     菜月が慌ててエンジェリックボイスを発動。聞いてるのか聞いてないのか分からんが、一応回復はできているぽかった。メタなことを言って申し訳ないが。
     ナイフを水平に構えてじりじりと距離を詰める久音。
    「とりあえず、性別変えて出直しておいて」
    「性別……ハッ、30代の魔法熟女で想像すればいいのか!」
     同じように影業を鋭利に構えながらも頭上に豆電球ぺかーするエルファシア。
    「イメージイメージ、久しぶりに変身したら衣装がむちむちうはうはな魔法少女30。その感じで目を開ければハイ目の前に魔法少女オッサンちくしょう無理だあああああああ!」
     物凄いヤケクソ感溢れる斬影刃をぶっ放すアルファシアである。
     久音もそんなビミョーなタイミングをうまく狙って斬影刃を発射。
     十字に交差した刃がオッサンの服をびりびりと破いていく。
    『イ、イヤアアアアアアアアアンッ!』
     胸の前で腕をクロスして仰け反るオッサン。
     目からハイライトの消えたフーリエが、無言のままデッドブラスターを乱射した。
     胸に刻まれる北斗七星。
     やがてオッサンの脱衣率が90%(少年誌でギリギリ許される最後のライン)に達した頃、璃理はバスターライフルをフルチャージして構えた。
     脚を広げ、トリガーを握り、腰の辺りで保持。
    「とっておきの魔砲だよ、マジカル☆クルエル・ロックオン! バスタァビィーム!」

     その日、一軒家から光の柱が天へと昇った。
     まるで一人の男の無念が晴れ、天へ召されていくかの如く。
    「おじさん、ほんとに好きだったんだね……想い続けられるのて、凄いよね」
     手を合わせ、割れ窓から空を見上げる菜月。
     とりあえず最後に綺麗なことを言っとけば大丈夫だろみたいな空気が、その場にひんやりと流れたという。

     かくして。
     実体化都市伝説、魔法少女オッサンは灼滅された。
     しかし彼はあくまで噂の産物。
     この世に噂がある限り。
     この世に妄想がある限り。
     いつしかまた、彼と同じ何かが生まれるかもしれない。
     そのときまで。
     安らかに眠れ、灼滅者たちよ。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 12
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ