山奥暮らしの影法師

    作者:飛翔優

    ●影法師とクロムナイト
     鬱蒼と木々が生い茂る、人里離れた山の奥。春を迎え花の香に満ち始めている暗き場所。大樹の幹に背を預け、そのシャドウは空を仰いでいた。
    「よもや、儂がこのような生活を強いられるとはのう……いやはや、ソウルボードで過ごしていた日々が懐かしい……」
     しみじみとつぶやきながらも、漏れ出てくるのはため息ばかり。
    「色々と考えておるが、未だに答えがでないのう。これからどうするか、何をすべきか……っ」
     俯いた瞬間、俊敏な動きでその場から飛び退いた。
     一拍遅れて、大樹が真っ二つに切断されていく。
     ずれ落ちた幹の先、姿を現したのは……。
    「むっ、貴様らはクロムナイト! 儂を迎えに……来たという雰囲気ではないようじゃのう」
     返答する様子はなく、姿を現した八体のクロムナイトは駆け出した。
     シャドウは影に力を込め、迎撃する様子を見せていく。
    「何のようだかは知らぬが、貴様らなんぞにやられる儂でない! 覚悟せい!!」
     ぶつかり合う、影と刃。
     散るは闇、僅かな光を灯す火花の群れ。
     やがて、一体のクロムナイトが影に貫かれて消滅した。
     一体のクロムナイトは、影に飲み込まれたままいなくなった。
     けれど……決してシャドウが優位だったわけではない。個々の力だけをみれば実力は上だったとはいえ、多勢に無勢。
     足元をふらつかせながらも前方からの斬撃を避けた瞬間、背後から切りつけられて倒れ伏す。
    「ぐ……こ、ここまで……か……がはっ」
     倒れたシャドウの背中に、クロムナイトは謎金属でできた儀式剣のようなものを突き刺した。
     儀式剣は青く光りだす。
     光が強さを増すにつれて、シャドウの姿は薄れていく。そして……。
    「サイキックエナジーのゴウダツにセイコウ、キカンスル」
     クロムナイトは地面から儀式剣を引き抜いて、全てが消え去った空間に背を向けた。
     彼らが立ち去れば……もう、何かを語ろうとする者は存在せず……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、メンバーが揃ったことを確認し説明を開始した。
    「爵位級ヴァンパイアから離反して潜伏中の朱雀門高校の会長、ルイス・フロイスから連絡がありました。その情報によると、ルイスと共に行動している例外を除き、元朱雀門高校の組織はロード・クロムによって再編成されて爵位級ヴァンパイアの配下に入ってしまったみたいです」
     ロード・クロムは自分に従わない者達を粛清しつつ、直属の配下であるクロムナイトを量産するなどして支配を確立している様子。
     更に、より強力なクロムナイトを生み出すため、サイキックエナジーの強奪作戦を行おうとしているらしい。
    「ロード・クロムの狙いは、第三次新宿防衛戦で生き残り、現実世界に潜伏しているシャドウ達。すでに複数のシャドウが、配下のクロムナイトにより襲撃されてサイキックエナジーを奪われてしまっているようです」
     ロード・クロムに従っている構成員の中にはルイス・フロイスのスパイが多く入り込んでいるため、クロム・ナイトの動きを事前に知ることは可能。
     しかし、旧朱雀門の部隊が阻止に向かえば、情報提供者が紛れ込んでいる事を知らせることになり、更なる粛清が行われて入り込んだ者達の命が危険となる。
    「ですので、皆さんの手で、このロード・クロムの野望を阻止してきて欲しいんです」
     続いて……と、葉月は地図を広げた。
    「皆さんに赴いてもらうのは福島県の山奥……この、山道を外れて一時間ほど歩いた先にある場所、ですね」
     鬱蒼と木々が生い茂り、日差しも枝葉に遮られて柔らかなものに代わっている場所。そこに、シャドウが潜伏しているのだ。
    「潜伏しているシャドウに関して、分かることは多くはないです。ただ、情報によるとどこか老成しているような感じで、独り言が多かったらしいです」
     一方、そのシャドウのもとへと向かっているのは八体のクロムナイト。総員クルセイドソードとWOKシールドで武装しており、四組に別れ一人が守り一人が攻撃する……といったコンビネーションによる戦いを仕掛けてくる。
     攻撃方法は総員同一。クルセイドスラッシュと神霊剣、そしてシールドバッシュ。
    「戦力としては、単体では勝るシャドウに対してクロムナイトたちは八体という数で圧倒する……といった形になるでしょう。ですので、戦いが終わるまで見守ったなら、クロムナイトがシャドウに勝利してサイキックエナジーを奪って帰還してしまうでしょう」
     阻止するためにはシャドウとの戦闘中に乱入するか、クロムナイトがシャドウに勝利した瞬間にしかける必要がある。
     前者の場合、上手く介入できれば戦闘を有利に進められるかもしれない。
     しかし、状況によってはシャドウとクロムナイトが共闘して攻撃を仕掛けてくる可能性や、クロムナイト撃破後に生き残っていたシャドウが襲い掛かってくる可能性もある。
    「ですので、慎重に作戦を検討し、実行して下さい」
     以上で説明は終了と、葉月は締めくくった。
    「シャドウの強力なサイキックエナジー。爵位級ヴァンパイアの手に渡れば、どんな悪用をされるかわかりません。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    アンカー・バールフリット(彼女募集中・d01153)
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    ニアラ・ラヴクラフト(ナイアルラトホテップ・d35780)
    吾唐木・貫二(赤眼の復讐鬼・d37267)
     

    ■リプレイ

    ●シャドウ防衛戦
     鬱蒼と木々が生い茂る山林の、未だ人の手に染められていない奥の奥。
     影が虚空を切り裂けば。
     鋼の剣が列をなして三日月の軌跡を描き記す。
     風斬りの音が響くたびに影は散る。
     硬質な音と共に火花が散れば、鋼の鎧には深い裂傷が刻まれた。
     枝葉の隙間をくぐり抜けてきた木漏れ日が世界をほのかに照らしてくれている場所で、繰り広げられているのはシャドウと八体のクロムナイトたちとの戦い。
     仕切り直しといった心持ちか、両者同時に距離を取った。
     一つ、二つと呼吸を整えながらにらみ合い、時を重ねること一分弱。
     再開だとばかりに四体のクロムナイトが踏み込んだ時、新たな影が戦場の中心へと飛び込んだ!
     シャドウが、クロムナイトたちが身を固める中、飛び込んだ影の一つレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)は空を指し示す。
    「あなた方を倒しに来ました」
     プリズムの十字架が出現し、クロムナイトたちを眩いほどの光で焼いていく。
     皮切りに残る影の多く……灼滅者たちは、クロムナイトを抑えにかかっていく。
     一方、吾唐木・貫二(赤眼の復讐鬼・d37267)は肩越しにシャドウへと視線を送り、にやりと笑った。
    「よう! じっちゃん、大丈夫だべか? 助けに来たっぺよ! あ、芋羊羹いるっぺか?」
    「……」
     訝しげに眉根を寄せ、灼滅者たちを見回してくるシャドウ。
     さなかに貫二は、灼滅者たちの牽制をくぐり抜け近づいてきたクロムナイトを蹴りよけて、紅蓮に染めた刃による追撃を試みていく。
     炎に染めた足で別の一体を大樹へと叩き込んだ文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)……クロネコ・レッドもまた、シャドウへと視線を向けていく。
    「こいつらは儀式剣でお前を刺してエナジーを奪う気だ。現実世界に不慣れな単独行動のシャドウを狙ってる。俺たちはそれを止めに来た。今は味方として共闘させてくれ」
     その証を更に示さん……といったところだろう。手首足首を黒に染めたデモノイド……といった姿を持つ井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、クロムナイトの鎧に駆動させたチェーンソー剣を押し当てた。
     火花散る中、黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)……天翔黒凰シロビナは、黒白の炎揺らめく巨大な十字架を大地に突き立てる。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     全砲門が開放され、無秩序に打ち出されていく光の弾丸。
     間を、ニアラ・ラヴクラフト(ナイアルラトホテップ・d35780)の放つ帯が駆け抜け黒髪ロングな女子高生ビハインド・隣人を導いていく。
     帯を避けたクロムナイトが隣人の一撃を受けていくさまを確認した上で、ニアラもまたシャドウへと語りかけた。
    「我等。灼滅者の混沌。貴様。影の流動。共闘こそが最善」
     沈黙の後、シャドウは小さなため息を吐き出していく。
    「色々と合点が言ったわい。そういうことなら、今しばらくは命を預けよう」
     疲れたような声音から、漏れ出ているのは諦観か。それとも、また別の感情を抱いているのか。
     シャドウにも色々な手合がいることを、灼滅者たちは知っている。
    「……」
     このシャドウはどの部類なのか?
     レイは影を操り始めていくシャドウを横目に捉えつつ、五枚の符を投写。
     五芒星の結界にクロムナイトたちを閉じ込めた。
     即座に前方に位置する四体のクロムナイトがひざまずく。
     その肩を足場に、残る四体のクロムナイトが結界を飛び越え剣を振り上げた。
     クロネコ・レッドとシロビナが受け止め、弾いていくさまを観察しながら、アンカー・バールフリット(彼女募集中・d01153)は警告を促す交通標識を掲げていく。
    「色々と気になる点はあるが、まずは確実にデモノイドを打ち倒そう」
     告げながら、いつでも攻撃を差し込めるよう仲間たちの状態に意識を割き始める。
     力を受け取る側のクロネコ・レッドは、切りかかってきたクロムナイトを右にどかし踏み込んだ。
     装甲に亀裂が入っている個体に狙いを定め、足に炎を宿していく。
     間髪入れずに振り抜いて、装甲ごとクロムナイトを打ち砕いた!
    「まずは一体目」
    「次は……」
     槍の穂先で刃を弾き、シロビナは視線を走らせる。
     仲間の減少に驚いた様子もなく、クロムナイトたちは集合した。
     前方には、盾役を務めるのだろう三体が。少し後ろには、攻撃役を務めるのだろう四体が、剣を横に構えていた。
    「あの方ですの」
     盾役を務める三体のうちの、真ん中に位置する個体のWOKシールドに、亀裂が入っていることに気がついた。
     意気揚々とシロビナは踏み込み、力強くハンマーを振りかぶる。
     黒白の炎を散らしながら振り抜けば、甲高い音とともに眩いほどの火花が散り始め……。

     シャドウとの交戦により、傷ついていた個体も多かったのだろう。灼滅者たちは盾役を務めるクロムナイトを中心に狙いを定め、シャドウと共に猛攻を仕掛けた。
     結果的にクロムナイトの攻撃役がフリーハンドとなり、反撃は激しい。だからこそ治療は欠かさずに、連携しながらの攻撃を続けていく。
     圧倒的に優位な戦力差だからこそ、油断せず戦っていた。
     そうしてWOKシールドに亀裂が入っていた個体を倒してから、しばしの後。
     貫二は踏み込む。
     シロビナに弾かれたばかりのクロムナイトに、拳を雨あられのごとく浴びせかけた。
    「あぁ、貴様等のせいで皆を、アイツを殺すことになったんだ。だから、死ね!」
     連打の果てに繰り出した右フックが、腹を貫きクロムナイトを沈黙させていく。
     残るクロムナイトは、五体。
     盾役が一体、攻撃役が四体。
     残る盾役へと向かっていく仲間たちを観察しながら、アンカーは再び警告を促す交通標識を掲げていく。
    「大勢は決した。だが、決して油断はしないでくれ」
     激励しつつ、小さな息。
     一瞬だけシャドウへ視線を向けた後、灼滅者たちに抗わんと暴れまわるクロムナイトたちを見つめていく。
     目を閉ざさずとも思い浮かべる事ができる、阿佐ヶ谷地獄の記憶。不死王戦争に続く数々の悲劇。四年前の、鶴見岳のソロモンの悪魔司令部突入戦。
     いっそ、あのときにアモンを討ち果たせていれば……。
    「……」
     抜くは短剣、苦い思い出の籠もった鶴見岳での。
    「……」
     頭を振り、再び交通標識へと力を注ぐ。
     刃に切りつけられた仲間の傷を癒やすため、最後まで戦う力を与えるため。
     受け取りながらも、雄一の左肩から流れる血は止まらない。
     気にせぬと、雄一は咆哮する。
     強い意志の赴くまま、スパイクで盾役クロムナイトを貫いた!
     トリガーが引かれると共に吹っ飛んだ果て、体が崩れていくクロムナイト。
     横目で見送り、雄一はスパイクに付着した体液を払っていく。
    「残ってるのは攻撃役だけ。早々に片付けてしまおう」
    「はいですの!」
     頷き、シロビナは駆けるまっすぐに。
     猛攻の余波で左膝から先を失っているクロムナイトとの距離を詰めるため。
     槍の穂先に、黒白の炎を走らせながら……。
    「五体目、ですの!」
     黒白の炎と共に貫けば、そのクロムナイトは炎に焼かれ灰と化す。
     一拍遅れて、もっとも後方にいた個体を隣人の霊障が押さえ込んだ。
     体は小刻みに震えるが、動くことはできないクロムナイト。その背後に迫るのは……。
    「寄生体が影を貪るとは厄介。肉の袋は熟成させた後、炭火で調理するのが良好よ。我慢を知らぬ痴れた物体は破壊するべき。我が存在を嗤う輩は冒すべき。己を嘲るのは己だけで充分だ。餓えた魔物は既知の範疇。未知以外は全なる一部」
     ニアラが後頭部に杭を押し当て、放つ。
     頭部をふっ飛ばし、打ち倒した。
     残る二体のクロムナイトは左右に別れ、木々の間に隠れつつ前衛として攻撃役を担う雄一にのみ狙いを定めたかのように動いてきた。
     させぬと、クロネコ・レッドとシロビナがそれぞれに向かい動きを抑えに向かっていく。
     牽制、打ち合い、鍔迫り合い……山林中に硬質な音色が響く中、灼滅者たちは攻撃を差し込んでいく。
     数が減り、被害が軽微になったからだろう。アンカーもまた幾つもの魔力の矢を虚空に浮かべ、シロビナが抑えているクロムナイトを指し示した。
    「終幕の時間だ」
     声を聞いたシロビナが後ろに飛び退いた瞬間、クロムナイトに降り注いでいく何本もの魔力の矢。
     衝撃を抑えきれぬのか、ひざまずいていくクロムナイト。
     雄一は正面から歩み寄り、腕を巨大な刃に変えていく。
    「……」
     小さく目を細め、大上段から振り下ろし……そのクロムナイトを、真っ二つに両断した。
     さなかにはシャドウの放つ影が、もう一方のクロムナイトをがんじがらめに拘束する。
     動きを封じられたクロムナイトに、貫二は砲塔に変えた腕を突きつけた。
    「さあ、トドメだ」
     ためらいもなくトリガーを引き、砲弾をぶっ放す。
     押しつぶされたクロムナイトは得物を手放し、あるべき形すらも失って……。

    ●感謝故に
     クロムナイトたちが沈黙すると共に、木々のざわめきさえも聞こえる静寂が訪れた山の奥。
     木漏れ日が優しくちらつく中、雄一は影を足元に戻していくシャドウへと向き直った。
    「改めて、話がある」
    「……」
    「知っているかもしれないが……もう、ソウルボードには戻れない」
     一呼吸の間を置き、シャドウは頷いた。
    「ああ、知っておる」
    「それなら話が早い。それで提案なんだが、積極的に人間に手を出さないならこの場は見逃す。ルイス・フロイトのもとへ向かえば多分、安全だろうし」
     一呼吸待てど、返答はない。
     判断材料が足りていないと判断し、クロネコ・レッドが口を開く。
    「一つ、ソウルボードには戻らないように。コルネリウスからの伝言だ。オルフェウスはシャドウが生きる事を望み、贖罪の道を貫いた。コルネリウスは未来の幸福を願って、ソウルボードと俺たちに慈愛の心を託した。俺もそれに応えたい。探したいんだ、共に歩める道を」
    「個人的に、話のできるシャドウを知っているのでね。今回も、と思ってみたんだ」
     アンカーもまた語りかけ、まっすぐに瞳を見据えていく。
     言葉を、思いを重ねるためか、ニアラもまた切り出した。
    「貴様が今後を如何に生存するのか、我には解き難い。されど貴様は最終的に枯渇する筈よ。故に我が貴様を導くべき。貴様――混沌に散った影――は何を求める。力も知恵も忘却した存在は消滅を望むが好い。精神世界の安定化こそが最良の末路だ。新たなる影の為。旧き影は身を投げよ」
    「……」
     シャドウは灼滅者たちを見回した。
     小さな息を吐いた後、一歩後ろへ下がっていく。
    「色々な事があったのはわかった。様々な場所で、物事が動いていたことも。じゃが……」
     否、それは……。
    「わしはわしじゃ。わしの心のまま、本能のままに動ける場所を欲する。ダークネス組織ならばそれも望めようが、貴様らの組織では……不可能であろう?」
     距離を取り、身構える。
     視線で、灼滅者たちを牽制し始める。
    「だが、このたびの助太刀には感謝する。じゃから、嘘を吐きこの場から逃れるではなく本音を語り……戦おう。どちらかが倒れる、その時まで」
    「然らば……」
     ニアラも身構えつつ、前線に隣人を送り出していく。
     傍らに立つ貫二は悲しげに目を細めながら、障壁の展開を開始した。
     レイは、虚空にプリズムの十字架を浮かべていく。
     対クロムナイトの時と同様に、戦いの口火を切るために。
    「……始めよう」
     眩いほどの光が瞬いた時、両者一斉に大地を蹴った。
     影が虚空を切り裂けば、灼滅者たちの刃が弧を描く。
     弧の内側にて影は散る。灼滅者たちも、防衛役を中心に命のかけらをこぼしていく。
     命のかけらは絶え間なき治療で補った。常に万全の状態を整えシャドウに立ち向かった。
     されど癒やしきれぬダメージは積み重なり、やがて隣人が一時的な消滅を迎えていく。一人、二人と膝をつき始めていく者が現れる。
     シャドウの側もまた、左腕を失っていた。
     脇腹も、半ばまでこそげ落ちていた。
     その虚ろなる肉体へと、ニアラは影を差し向ける。
     変わらぬ眼差しを向ける先、影はシャドウを飲み込んだ。
     ニアラが力を注ぐ中、少しずつ影の内側から気配が消えていく。
    「……」
     そのシャドウが、最期に何かを語ることはない。
     闇の中に溶けるようにして、消滅した。

     静寂を取り戻した森の奥。治療や後片付けなどが行われていく中、レイが静かなため息を吐き出した。
    「この調子で行くとシャドウはすぐ絶滅しそうだな……。そうならないためにもどうにかできると良いが」
    「中々上手くは行かないな……」
     直哉も肩を落としていく。
     さなかには、クロムナイトの屍を探っていた白雛が、一振りの儀式剣を拾い上げた。
    「こっちの方は……これで、何かがわかればいいんだけどね」
     シャドウを吸収するという、儀式剣の持つ力。及び、ロード・クロムの目的の本当のところは何だろう?
     知るためにも、色々と調べておかなければならない。
     けれど、今は……。
    「……」
     駒扱いにされているデモノイド、自らの意志を持って消えていったシャドウ。
     雄一は各々の倒れた場所を見つめながら、ひとり静かに瞳を閉ざす。
     太古の昔から、今もなお変わらぬ自然を残している場所で……散っていった彼らへの思いを……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月28日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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