
「灼滅者の兄貴~、姉御~! ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたッスよ~!」
「お、ノビル」
ずばん、と勢いよく開かれた扉の音に振り向けば、眼鏡小僧こと日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が、アウトドアグッズを抱えて駆け寄る。
「このままだと、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうッスー!」
息を弾ませながらも最後まで一気に言い切ったノビルは、暫し肩を上下させた後、放送内容を語り出した――。
「川辺で魚釣り、皆でカレー作り……キャンプたのスィー!」
「星に手が届きそうな夜空も素敵! 最後はやっぱりキャンプファイアーよ!」
都会の喧騒を離れ、大自然に癒しを求めキャンプ場に集まった老若男女。
夜はグループの枠を越えて炎を囲み、歌や踊りで交友を深めるのが恒例なのだが、燻っていた噂が共有されるのも――この時だ。
「そういや、このキャンプ場で炎を囲んでいると、影が増えるって聞いたことある?」
「ああ、知ってる知ってる」
皆が炎に向かって歓談していると気付かないのだが、ふと、後ろを見てみると……炎に照らし出された影が、集まった人数より多いというのだ。
「誰が増えたのって話じゃん」
「振り向くの怖いよね~」
と、ここまで盛り上がれば、中には指差し数を数える者も居て、
「よっし確認! いち、に、さん……」
「やめてよ~、本当に増えてたらどうするの~」
「ご、ろく、なな……おいおい……おいおい……」
二十で止まる筈の指はそのまま、揺れる影を延々数え続ける。
「ど……どうなってんだよ……!!」
「やめて! やめてよ!」
何が増えたのか―ー恐怖した者達は、振り向く事なく「なにか」に屠られた――。
「このキャンプ場でキャンプファイヤーをしていると、集まった人数より影が増えて、その影が危害を及ぼす、という事かしら」
「そっす!」
――都市伝説『影法師』。
折角の楽しいキャンプ、その最後の思い出となるキャンプファイヤーで命を落としてしまう悲劇に憤るノビルに、槇南・マキノ(仏像・dn0245)もそっと柳眉を顰める。
「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の兄貴の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止める事が出来たのは、マキノの姉御も知る所ッスよね」
「えぇ」
その結果、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得られるようになったのだ。
「兄貴と姉御には、この都市伝説が放送内容の様な事件を起こす前に、現地へ行って灼滅してきて欲しいんス!」
「……分かったわ」
硝子を隔てた翠瞳に、マキノはこっくり頷いた。
「先ずは一般のキャンパーに紛れて大自然を楽しんだ後、キャンプファイヤーに参加して、都市伝説の出現を待って欲しいッス」
可能な限り一般人の安全を確保した上で、戦闘を行って欲しいのだが、
「出現数が分かってないのが厄介なんスよね……」
「こちらの数を上回る可能性もあるって事?」
無論、数が多ければ個体としては弱まろうが、どのような形になろうとも優勢を奪われたくはない。
「布陣には気を付けておきましょう」
「っすね」
真剣な表情のマキノの傍ら、深く頷いたノビルは更に言を足す。
「あと、この情報はラジオ放送の情報から類推される能力ッス。可能性は低いとはいえ、自分の予測を上回る能力を持つ可能性があるんで、油断は禁物ッスよ」
無論、ノビルは灼滅者が負けるなどとは思っていないが、尊敬する彼等だからこそ、大事があってはならぬと声を固くする。
尊敬の眼差しはキリリと、そしてビシリと敬礼を捧げ、
「こんな奴、サクッと片付けてキャンプファイヤーで思い出を作るッスよ!」
とマキノら灼滅者を見送った。
参加者 | |
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![]() 羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) |
![]() 万事・錠(オーディン・d01615) |
![]() 一・葉(デッドロック・d02409) |
![]() 城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563) |
![]() 青和・イチ(藍色夜灯・d08927) |
![]() 北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495) |
![]() 白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044) |
![]() 荒谷・耀(一耀・d31795) |
●
木洩れ日が戯れる森の中、涼風に撫でられる葉音が耳を擽り。
湿り気を含んだ土を踏めば、深い弾力が足を包む――極上の感触。
「やっべー大自然超きもちいい!」
空気がご馳走と、肺に清爽を満たす万事・錠(オーディン・d01615)は薪を肩に担ぎつつ、
「自然いっぱいで楽しいですー!」
「おんっ」
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)はあまおとの背に小枝を山と積み、足取り軽やかに森を抜けてくる。
二、三歩……いや五歩ほど遅れて影を現した一・葉(デッドロック・d02409)は蚊に燃料を奪われたか、
「んで俺んとこばっかくんだよ。あークッソまた食われた」
「虫除けスプレー、ちゃんとした?」
首を掻き掻き合流すれば、城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)が救急箱から鎮痒薬を取り出し、丁寧に塗ってやる。
三人を迎えた拠点では既に人数分の寝床が整い、青和・イチ(藍色夜灯・d08927)は次なる作業――樹木にロープを渡しつつ、
「テントで寝るのも、楽しみだし、ハンモックで、昼寝もしたい……」
その端整に笑みは乗らぬものの、心は足元ではしゃぐくろ丸に負けずうきうきしている。
時に川辺組も意気揚々と戻って、
「魚の塩焼きも外せないよな」
北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は釣竿を手に川魚を人数分、
「川の水、すごく、冷たかった……」
水の確保に向かった白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)は、ボトルを切り株に置いて(八割ジェードゥシカが運搬)、ふう、と一息。
キャンプ場に到着するなり分散した彼等は、薪を集め、テントを設営し、食材や水の調達を滞りなく行って、こうして再び顔を揃えた訳だが、
「キャンプはチームワークが大事って言うけど、うん、ばっちりね」
槇南・マキノ(仏像・dn0245)はその驚くべき手際の良さに皆のワクワクの程を見る。
「ま、良いんじゃない?」
荒谷・耀(一耀・d31795)も賑々しさを否定せず、寧ろ手伝うように川魚の腸抜きに取り掛かる――その手捌きたるや、凄腕の主婦。
すっかりキャンパーな一同は、腹ごしらえの為にここから更に手分けして、炊事の支度へ。
メニューはカレーにバーベキュー、川魚の塩焼きと、夜に『仕事』をするとあって豪勢だ。
「わたしカレーはゴロゴロ野菜のが好みだけど、皆はどう? ていうか、ご飯どうするの?」
空の飯盒を手に千波耶が首を傾げれば、イチはじいっと黒塊を見詰めて、
「飯盒……確か、火に焼べて……ガンガン叩くんだよね……それならできそう」
「ガンガン叩……えっと、青和くんには火の番をお願いしようかしら」
徐に木の棒(でかい)へと伸びる手を、マキノがふんわり阻止。
主食が危ぶまれた瞬間、陽桜は得意気に咲んで、
「今日のキャンプの為に、飯盒炊爨の確認と実践をしたあたしにスキはないのですっ」
「おおぉ」
救世主現る――! と希望を見た矢先、
「ね、あまおとー」
「……くぅん」
サッと視線を外した被害者(犬)の様子が……妙に気になる……。
然し経験は積み重ねるもの、計量をはじめ、洗米の加減や、沸騰した水を用いる周到は頗る頼もしい。
「肉は大きめでステーキ風にして後のせとかどうよ?」
料理の腕に定評のある錠は、ダッチオーブンに美味を閉じ込めつつ、馨香だけは馥郁と鼻を掠める罪作りなアウトドア男子。
但し対角に座る相棒は一縷も魅了されず、
「けむい」
と、一言。
これには錠も柳眉を顰め……いや、超・笑顔だ。
芳醇に空腹を誘うは、葉月が並べた塩焼きも罪が深かろう、滴る油はパチンと爆ぜて香ばしく、
「今年は夏っぽくなかったしな、せめてキャンプは楽しもうぜ」
火加減を覗く青瞳は透徹と、過ぎし夏を見るよう。
やや火を離れた所では、夜奈ら包丁チームが野菜をごろごろ切っており、
「おなか、すいてきた……」
不意に零れた言葉に衆目が集まれば、少女は淡く色を挿して、
「べ、べつに食い意地はってるとかじゃ、ないんだからね」
ぷいっと振り切る可憐には、おかわりの未来もあるか――。
分業に優れた彼等は、段取り力も卓抜しており、テキパキと洗い物をこなす耀はというと、
「これでも、私は私で楽しいわ」
己が働きが皆々の歓談を輔く――裏方のやりがいを実感中。
キャンプで見せたこれら見事な連携は、戦闘に於いて十分に発揮される事となった。
●
一般人を脅威より守るに、全灼滅者がESPを持ち寄る――斯く周到は余程見られまい。
先ず以てキャンパーに声を掛けて回ったのは、プラチナチケットを所持したイチで、
「テントで、待機を、お願いします」
スズメバチの巣を駆除する為、キャンプファイヤーの開始時刻を一時間程度遅らせる――これも良い空音。
キャップをやや目深に、スタッフジャンパーに袖を通した彼を関係者と思い込んだ客は、安全が確認できるまで指示待ちと言った処。
中には不満に思うキャンパーも居るが、千波耶はテレパスで効率的にその者を探し、
「万一刺されてアナフィラキシーショックとかで命の危険にあったら怖いでしょう?」
「うおお、姉御の言う通りッス!」
「駆除が終わるまでテントでじっとしていましょう」
「押忍!」
にっこり、ふわりとラブフェロモンを漂わせれば、従順がテントの中へ入ってくれる。
穏便に済ませたい時は色気に限ろう、耀も若き人妻の香気を放って、
「あなたの事を心配しているのよ」
「まままマジで!!」
――夫以外に心を掛けよう筈もないのだが。
「だから此処にいて」
「ハイよろこんで!」
魅了された者は、自ら恋の檻(テント)に納まるのだからチョロイ。
熱烈なファンともなれば、愛し男の袖を引いてしまうものだが、葉月はどうどうと宥めて、
「え~声掛けてくれたのに~?」
「ナンパじゃないよ? 俺、恋人いるし。浮気なんてしたら怒られちゃう」
「やだ~行かないで~」
極上の蠱惑に群がる山ガールを何とかテントに押し込める。
「皆さんは平気なんですかぁ~?」
「ほら、サバイバルに強いアイドルいるじゃん? 俺らリスペクトしてるんだよね」
「あ~ん、蜂との戦い見たい~」
「駆除の応援したい~」
マキノは追っかけにもなりそうな熱狂を遮って、
「危ないから、作業が済むまで辛抱してね」
「……は~い」
自分の手でテントを閉めてくれるまで、こちらが辛抱。
一筋縄ではいかぬ相手も、準備を重ねた彼等には障壁になるまい、
「蚊に食われまくって気が立ってんだよ。ギャーギャーうるせぇとお前らも駆除しちまうぞ」
「ひっ……ひゃい」
「すびばせん!」
首元に手を遣った儘、葉はぶわり王の気風を戦がせ、逃げ込むようにテントへ入ったキャンパーを舌打ちに蓋して戻ってくる。
斯くして全員の待機を確認した仲間達は、陽桜らが待つ営火広場に集まって、
「皆さんが異音を聞いて戻られてもいけませんから」
少女が之より起こる始終の音を遮蔽すれば、錠は周辺を殺界に囲繞し、
「ここから先は、俺等灼滅者だけが味わえる醍醐味だ」
と、炎の精に扮した夜奈に、点火した松明を渡す。
燃え立つ炎を預った白皙は煌々と、
「ファイヤー、はじめ、ます」
轟、と勢いよく空気を飲み込む灼熱に、冴ゆる氷眸を注いだ。
●
「おい、誰か楽しい話しろよ。影法師さんが来ねぇだろが」
葉の声に促された千波耶が「楽しいかどうかは分からないけど」と断った上で切り出した話が、奇しくも敵の出現トリガー。
「わたしが対応した一般人の中に、何処かで聞いた口調の子が居たの」
「えっ、と。僕も、そう思った……」
弾かれたように声を添えたイチは、細顎に指を添えた儘、先の景を思い起す。
場は俄にザワついて、
「まさか、あいつ……」
「いえ、そんな筈ないわ。彼は今、ヒラメキが欲しくて滝行しているもの」
「ひらめき」
今度は何を企んでいるのかと不穏が過った瞬間――炎を囲むメンバーの影が揺れる。
この気配に間違いはなかろう。
「話の落ち着く先も気になるけど……お出ましのようね」
艶髪を揺らして振り向いた耀が、【三宝の御幣】を解放して耐性を敷く。
山吹色の勾玉が彩を放つと同時、清光を嫌うように蠢く影が件の魔か――其は黒い炎の如く煙って、
「七、八……十一、十二体。前衛に固まって、ひとつの生き物のような……」
「減衰とか、考えないの、ね」
本能的で原始的な印象を受け取った陽桜と夜奈は、距離を違えて右より【縁珠】を、左より【花顔雪膚】を十字に交わらせ、先ずは一体、火粉と躍る灰と化す。
然し撃破して空いた所には、別なる個体が影を割って隙間を埋め、
「単体としては弱めでも、増殖するのが煩わしいな」
「しゃあねぇ、まとめて狩り取るか」
意を通じ合わせた葉月は【Cassiopeia】に颶風を、錠は【SHAULA】の衝撃に黒焔を逆巻き、海嘯と迫る灼熱を蹴散らした。
単攻撃、列攻撃を兼ね揃えた戦術も優秀ながら、炎を背に戦う配陣も剴切。
テントに隠れた一般人達を万が一にも屠らせまいと、彼等は自らを好餌とした訳だが、己が影を媒介に背後から攻撃を喰らう懸念も排した、実に良い布陣と言える。
加えて、全員が繋いだ感情の絆は鉄の連環の如く、
「ノビちゃんは『サクッと倒して』って言ってたけど……皆、手を抜かないのね……」
弓を番えたマキノは、間隙許さず畳み掛ける仲間に感歎を一息。
彼女より光矢を受け取った陽桜は、えへんと花顔を綻ばせ、
「勿論、キャンプを楽しみたいあたし達に、スキはないのですっ」
「わふ!」
輝ける銀シャリに(やっとこさ)与ったあまおと然り、食を分かち合った一同は強い、強い。
「森を散歩して、魚焼いて、カレーも食べた後は、寝る前に、星を見に行くんだ……」
「おんっ、おんっ」
少女と共に灼罪の光弾を揃えたイチも、鋭撃を代わるくろ丸もまだまだ遊び足りぬか――今日の守盾は損耗を知らぬ。
牽制と掣肘に長けたジャマーの活躍も鮮やかで、
「そうね、やる事いっぱいだし、手早く片付けちゃいましょう」
悪魔の舌と這い寄る黒影をヒラリ躱した千波耶は、お返しとばかり【7th】に縛りつけ、身動きを奪われた瞬間には、一足で接敵した葉が【STORM RIDER】の墜下を以て挙措を殺す。
衝き上がる波動とは真逆に言は淡々と、
「腹ぺこヤナたんが拗ねる前に終わんねーとな」
これを聞いた夜奈は「ピンク、しばく」と言を置くや、祖父ジェードゥシカが顔を晒すに併せて猛炎溢流、
「ハラペコヤナたんとか、言うな」
ゴルァと組み敷かれる敵にこそ同情が募ろう。
蓋し敵を射竦める青瞳も、仲間にとっては愛らしい星の瞬きで、
「育ち盛りのようじょの為に、この後はマシュマロ焼かないとな」
錠も錠とて、可憐がむくれると理解っていてこの科白。
言は揶揄い半分だが、蠍は弱った個体を確実に死に見舞い、隣合う別の個体には時を置かずして螺旋の一撃。
「増殖する前に撃ち抜いてやるぜ」
葉月だ。
疾風に梳られた闇黒が白磁の麗貌を掴まんとするも、力及ばず――ずるり滑り落ちた後には艶冶の微笑が覗いて。
敵の損耗を見極めた耀は、ここに攻勢へと転じ、
「始末はつけるわ」
玲瓏は凛冽と。
異形の怪腕が闇を握り込めるや、掌で散り散りとなった影は煙の如く、儚く、消えた。
●
件の『スズメバチの巣の駆除』は四半刻と経たぬうちに成功し、テントより顔を出したキャンパーも上機嫌で炎を囲み始めた。
或る者は音痴も構わず大声で歌い、また或る者は自由に身体を動かして、
「……賑やかなものね」
帰る場所は其々だろうに、炎の前で時を同じくすれば、斯くも心は近しくなるものか――と、耀が静かに眺めていると、ふんわりとした香味が鼻頭を擽った。
「お疲れ! こっからは打ち上げといこうぜ」
「……ええ」
見れば錠がスモアを差し出しており、クールな彼女も勝利の福音とそれを受け取る。
疲れを大いに労ってくれる甘味は、隣に腰掛けるマキノにも渡され、
「……心配かけて、ゴメンな」
「声を聴きたいのに、声を掛けたいのに、できなくて……辛かったのよ」
眉根を寄せて詰る彼女に恥かんだ錠は、重奏を愉しむメンバーを親指に示し、くしゃりと笑った。
「もう大丈夫。コイツらと居るから」
深い安堵が胸に満つのは、炎に照る皆々の笑顔の所為だろう。
丸太に座るメンバーの片手にスモア、もう片手にはカフェ:フィニクス製『Kirschbaum』に仕立てられた珈琲が歓談に深みを添えて、
「ドリップコーヒーか……雰囲気あるな」
「この香り、落ち着く……」
「身体動かした後ってのもあるけど、キャンプで味わうものってどうして美味いんだろうな」
「すごく、おいしい……沁みる」
一滴一滴を見守った葉月も、ぽつぽつと語るイチも、ホッとするほど自然体。
千波耶特製の珈琲が人を癒せば、陽桜はわんこらの奮闘を讃えて、
「あまおととくろ丸さんは、冷たいお水でクールダウンです」
「わふっ」
「おんっ」
柔かな橙色に彩られる景が、とても心地良い。
皆々を回った千波耶が、カップ二つを手に葉の隣に戻れば、彼はアツアツのマシュマロを用意しており、
「よーうくん、ひとつちょうだい」
「はい、ちーたんあーん」
業務用スーパーの。徳用マシュマロだが。
葉の手が動いたとあらば、之に勝る美味はなかろう。
「俺、基本食い専だけど。お前の為に一生マシュマロ焼いてやんよ。ほら食え。たんと食え」
「……多くない?」
然し全部食わせるつもりか――帰るまでに二~三キロは肥えそうな量だ(計算通り)。
そんなやり取りさえパチリとシャッターに切り取る夜奈は、一瞬こそ愛おしいと知るからか、
「思い出作り、もあるけど……あとで、ノビルにあげ……たら、よけい、さびしい、かな」
なんと! 従者に! 優しい!
これにはマキノもニッコリと咲み、
「こんな素敵な笑顔をあげたら、アイドルうちわを量産しそうね」
「うん、自分でもっとこ」
――残念ながら、秘匿画像となった。
さて、戦闘後の疲れを甘味と珈琲に癒した一同は、今度は仲良く天体観測。
イチは期待と共に詰めて来た望遠鏡を鞄より取り出してわくわく、
「武蔵坂学園で見るより、沢山、見つけられると思うから……」
どの方角から攻めようかと楽しく思案中。
錠は他キャンパーがもどかしそうにしている所に声を掛けて、
「あの、どれがどれだか……」
「こうも空気が澄んでると、星が見えすぎて分かんなくなるよな」
先ずは目印になる星を教えてやる――彼の周りはちょっとした秋の観測会。
陽が暮れて久しく、大気も随分と冷えてきたのだが、夜奈は銀糸の髪の揺れる儘、紫紺の夜空を眺めて、
(「祖父とみる星がすきだった」)
彼が居なくとも、見上げれば寂しさが紛れると――そう思っていた少女も今は寂しくない。
何故なら、少女の傍には友愛があって、
「風邪引いちゃうわよ。これ、羽織って?」
決して薄着で居た訳でないのに、ブランケットを掛けてくれる優しさが嬉しい。
「ありがと、チハヤ」
――みんながいるから、さびしくないよ。
少女はきゅ、と生地を握りつつ、小さな言を夜空に届けた。
未だ燃え続ける井桁櫓では、葉と葉月が火の番をしていて、
「ここんとこの情勢がアレで、後夜祭も臨海学校もやれなかったからなあ」
「こんな時局とはいえ……夏らしいこと、もっとしたかったよな」
息つく隙もなく畳み掛ける各勢力の動向を、世の激動を、眼前の炎に映す。
耀は灰の塊をつんつんと解しながら皮肉を添えて、
「それでいてテストはなくならないのよね」
ほんとそれ、と唇を引き結ぶ二人の沈黙を受け取った。
ほろり苦笑を零した陽桜は、足元に伏せるあまおとを撫でつつ、
「それでもあたしは、歩こうと思います」
苦しいセカイを、この子と共に。
常に形を変えて燃え続ける炎を見詰めた儘、ぽつり紡がれた言は、高く夜空に焚き上げられて、静謐に沁みるようであった。
嵐に似た激動を往く翼は、時に止まり木を見つけながら、それでも羽撃かねばならない。
此度、炎を囲んだ者達は、一時の平穏に与った後に再び飛び立つのだろうと――灼滅者の生き様を見るようであった。
作者:夕狩こあら |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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