魔人生徒会~月うさぎが見てる

    作者:夕狩こあら

    「月が、キレイな季節……ですね……」
     ぽつり、ぽつりと。
     淡々として、それでいて幼子のようにたどたどしい声が、生徒会室に沁みた。
     決して強くないが、その声は円卓を囲む仮面の者達の視線を引き付けて、
    「――ああ、もう秋だな」
    「随分と過ごしやすくなって、もうあの夏の暑さを忘れてしまう程だよ」
     集まる声に少し笑んだか、暫し時を置いた狐面の少女……いや、身長はそれなりだが、少女のような印象を持つ仮面の者は、大きな狐のぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて言った。
    「みんなでお月見……どう、ですか……?」
     高い声は僅かに昂揚を乗せて、
    「森の奥にね、開けた丘があるの。そこからの眺め、とってもキレイだから……お弁当でも持ち込んで、夜のピクニック……なんて……」
     知らず言葉が流れ出した所で、己がワクワクに気付き、再びゆっくりと語る――その姿が尚の事、仮面の下の素顔を幼く思わせる。
     赤と黒を基調とした中華風のロリータワンピースに細身を包んだ少女人形は、一呼吸置いた後に言を足して、
    「ここは人もいないし……サーヴァントさんも、たまには……遊ばせてあげたら……喜ぶかも……?」
    「サーヴァントも……それはいい提案だ」
    「皆で観月を楽しもうではないか」
     次々に寄せられる賛同の声に、そっと、白タイツの脚を曲げて挨拶をした――。

    「今年の中秋の名月は10月4日、と……」
    「小高い丘からなら、見事な月が見られそうね」
     魔人生徒会より配布されたプリントを持ち寄り、日下部・ノビルが月齢カレンダーを、槇南・マキノが現地の地図を確認しながらおしゃべりをしている。
    「自分、月は何度も見た事あるんスけど、ウサギの形に見えたためしが無いんスよね~」
    「ふふ、それなら望遠鏡でじっくり観察してみたらどうかしら?」
     幸い時間はたくさんある。
     持ち寄ったお弁当を食べながら、ゆっくり、じっくり眺めたら良いのだ。
    「秋も深まれば、夜空も透き通って月や星が綺麗に見えるわよ」
    「ロマンっすね……」
     大地に大の字に寝転がって、或いは膝を抱えて。
     広大な夜空に輝く満月を眺めたなら、己のちっぽけな悩みも溶けていきそうな――月にはそんな包容力がある。
     魂を分け合う大切なパートナーであるサーヴァントと共に、また掛け替えのない友を隣に、静謐の時を過ごす贅沢は一入だろうと――二人は顔を見合わせて、
    「皆に声を掛けて回りましょう」
    「押忍!」
     教師の目を盗みつつ、廊下を小走りに駆けた。


    ■リプレイ


     豊かな秋の色付きさえ眠る夜。
     昏い森を抜けた陽和は、花顔を照らす冴光に瞳を細め、
    「ほら、月が見えましたよ。ここまで鮮明に見えるのは珍しいですよね?」
     手を引いていた義兄姉を、小高い丘に連れ出した。
     双調は右より、空凛は左より微笑して、
    「実に綺麗で、実に風流な。これ程の月を見られるとは贅沢ですね」
    「吸い込む空気も凛と澄んで……心地良いですね」
     防寒具にPコートを揃えた二人は、嘆声も重なる比翼の鳥。
     次いで月下に影を暴いた勇弥は穏やかなテノールを添えて、
    「ああ、本当に佳い月だ」
     フィニクスのメンバーと共に、観月に相応しいテーブルを整える。
     涼子は風呂敷の包みを解き、凜は重箱の蓋を開けて、
    「みたらし団子、作ってみたの。一口サイズを串に五つ……ちょっと柔かいかしら」
    「わたしからは、粒あんときなこのおはぎを。きなこのはこしあん入りだよ」
     取り分ける紙皿もモダンな和柄と小粋。
     鈴音は神衣の袖を抑えつつ小盆を差し出して、
    「薩摩芋、南瓜、潰した栗をそれぞれ混ぜた月見餅よ」
    「たれが別添えのみたらし団子もおいしそう……!」
     義妹の天音は早速とばかり、月見の供にひとつ連れ出す。
     彼女に続いたさくらえも白磁の指を伸ばして、
    「この面子で行くと食べ物には困らないのがいいよねぇ」(ほくほく)
    「では俺からはほうじ茶と、マロンラテを」
     保温ポットと保温マグを交互に示すバリスタに「マロンラテを」とオーダーする――幾度と交したアイコンタクト。
    「このクラブにいると、本当に食のバラエティが豊富で満足できます」
     対角に座る手寅は、美味の競演に瞳を煌々と、飽食を知らぬ胃をここぞと甘やかす。
     芳しい薫香に招かれた陽和は愉しげに、
    「私と姉さまにはマロンラテ、兄さまにはほうじ茶を。おはぎとお団子と、お餅も三人分!」
     後より追いついた双調と空凛は、彼女の逸る心を宥める様に頭を撫でる。
    「三人分を貰ってくれるのは有難いのですが、もう飲み物で手が塞がってるでしょう」
    「お皿は私達が持ちますよ。皆で仲良く食べましょう」
     神凪家の睦まじさに、ほわり、卓が和んだ。
    「――やぁ、良い月夜ですね」
     そこに掛かる佳声に振り向けば、月光に縁取られたシルエットは長~い耳をぴょこりと、
    「あら? 月うさぎが美味しい物につられてやってきたのかしら?」
    「……って、え!? 人語を喋る大きなうさぎ!?」
     氷上義姉妹が驚いた視線の先――靱が愛らしい兎の着ぐるみ姿(防寒ばっちり☆)で堂々サムズアップ!
     月に兎――最高のゲストを演じる仲間に一同は失笑を禁じ得ず、
    「ふふっ。貴方も団子いかが?」
    「御納方さんはいつからそんな身体を張ったネタを提供するポジションになったんだ」
     涼子は団子に嫣然を添えて、さくらえはサムズアップを返して迎える。
     蓋し靱も、いや兎も手ぶらで来た訳でなく、
    「あー、……道々キノコ採ってきましたけど、炙って食べます?」
     ずん、と差し出されたそれは、なんと見事な極彩色。
     凜は冷や汗を流しつつ冷静に、
    「えっと。山菜やキノコはちゃんと図鑑見て判断しないと危ないし、これは見るからに……」
    「ちょっと待とうその明らかにヤバいのは専用のESPで処理してからにしようか!?」
     勇弥は一息でツッコミを入れて二秒後、本人が所持するキノコグルメにほっと胸を撫で下ろした、のだが。
    「……うざき鍋」
    「えっ」
    「えっ」
    「まさか、そっち?」
    「食べませんよ? ええ、食べませんとも」
     手寅が二度も繰り返した言に、不穏が過った。

     澪の事、もっといっぱい知りたい――そう胸を弾ませて従弟の手を引く深香は軽快に、
    「ふふっ、月夜のお散歩、嬉しいなぁー♪」
    「転ばないでよー? 雪も、あんまり遠くに行かないようにー」
    「なぁご」
    「雪も嬉しいのよ。ねー」
     自由に飛び回る翼に保護者のように声を掛ける彼に、ふわり笑みを零す。
     澪の姉代わりを務める深香は、しっかり者の彼がいとおしく、
    「栄養バランスも考えた特製メニューのお弁当を作ってきたよ」
    「私は澪の為に覚えたお子様ランチしか作れないから誇らしいわ」
     瞳を細め、手を合わせ。
     彼らしい手料理に舌鼓を打った。
     今宵は夜通し優を独占できると期待していたヒトハは、彼にくっつく海里にショボンとしていたのだが、
    「取り敢えず団子食べなさい。もやしは肥りなさい」
    「お腹は空いていないです……」
    「ほら、あーんしてあげるから」
    「、ぁっ……」
     差し出される串に嬉々と唇を寄せる――愛らしい従順。
    「ふふ、冷酷無慈悲とは言うけれど」
    「優の兄貴は面倒見が良いッス!」
     時にマキノとノビルが挨拶に来れば、彼はささっと優の背に隠れてしまい、
    「人見知りで、ごめんな」
    「こんばんはです……」
     その遣り取りさえ微笑ましいと、また笑顔が零れるのだった。
     夕月は今年もサイダーは忘れず、おにぎり、御采、ほうじ茶、デザートに和梨と準備は万端。
     細顎に指を添えた儘、荷物を見るアヅマの瞳が何より語ろう、
    「え、量が多い……?」
    「やはり――月より団子、か」
     ピクニックというより籠城するレベルだが、付き合いもそこそこ長い二人だ、もう慣れたし、
    「ん、お団子はお団子だよ? デザートではない」
    「ああ、うん。団子とデザートは別なんだ……」
     キリリと断じる花顔に、この量なら相当な夜更かしができようと苦笑が添えられた。
    「月見といえば和服! そして団子!」
     未知は先のコンテストや件の壮行会でも袖を通した浴衣にコートを引っ掛け、月下に雅を着做す。
    「みたらし団子・餡団子・三色団子、大和どれ食べる?」
     相棒の月映えを愛でる瞳は、揃いの黒扇が同じ美味を指した瞬間、柔かく細んで、
    「俺みたらし……え、大和も? 仕方ねーな、半分こしようぜ」
     さやかな微笑が最初の二つを「あーん」と差し出した。
     大切な人と魂を分けた者の絆の強さは幾許か――夜奈は嘗て祖父と見上げた夜空を、祖父の姿を映す心霊と共に仰ぐ。
    「闇に堕ちた時も、ずっといっしょにいてくれたのは、あなただったね」
     ありがとう、ジェードゥシカ。
     ぽつり零れた佳声は、月明り星明りに沁みて、
    「近い未来、ヤナは祖父のところへ行くけど。それまでどうか、いっしょにいてね」
     言を攫った夜風が少女の躰を冷やす前に、温かな命を宿した三毛翼猫がすり寄った。
    「ほほ、綺麗なお月さんどすなぁ」
    「なぁご」
     先行したりんずに紫瞳を細めるはまり花。
     聞き馴染む声は更に届いて、
    「月の下で祝勝会とかマジ風流じゃね?」
    「つっても、いつものように集まって飲み食いするだけだけどよ」
     錠がひとつ、葉もひとつ、まりちゃん謹製『茹でたて月見団子』を口に運ぶ。
     祝勝会――夜奈を含め殺人鬼をルーツとする者にとって、六六六人衆の壊滅は大きな節目となった訳だが、
    「ケリがついたと想うと、胸に穴が開いた様な気分だけどよ……当分退屈はしねェかな」
     錠が親指に示す先、葉はいつもの悪言もなく杯の面を揺らす。
     残存勢力も片手で数える程度になったが、逢いたかったヤツには逢えずじまいで――杯に揺れる月に自嘲を滲ませた灰の瞳は、見上げぬと決めた月を仰いで、見えぬ影を追い。
     酒でも煽りたい気分だが、とりあえず今は――、
    「戻ってきたいつもの音頭に合わせて」
    「あぁ、俺等の勝利を祝して――乾杯!」
    「かんぱーい!」
     心地良い声を、音を、重ねる。
     錠は杯に写る月を丸呑みする如く、一気に飲み干し、
    「――月が笑ってるな」
    「お月さんも見守ってくれる筈やて。この先の戦いも、無事でいられるようにってなぁ」
     月の光には不思議な力がある、とまり花が咲めば、夜奈も淡く蕾を開いて、
    「これから先も、みんなで無事に、がいいね」
     美味をひとつ、啄んだ。

     お団子なきお月見は、ご飯なき稲荷寿司に等しい――そんなミルミの為に用意した陽菜特製の月見団子はなんと豪勢。
    「餡子と、きな粉と、あとお芋さんの餡もね、こねこね~って練ってみたの……♪」
    「わぁ、美味しそうですねっ」
     大人ぶりたいお年頃の陽菜は、キラキラ輝く瞳を前に得意気に、
    「さぁ、たんと召し上がれ……♪」
     少女の褒めてオーラを受け取ったミルミは、ぎゅっと抱き締めて笑顔のご褒美。
    「ふふーっ、お姉ちゃんの為に頑張ってくれて感激ですよ!」
     最早、手製の団子と陽菜の愛らしさしか眼に入らないミルミであった。
    「お月さまやウサギさんをモチーフに作ってみました」
     と、笑顔を添えた陽桜謹製『お月見重』もまた一級品。
     上段、まんまるおにぎり。
     中段、彩り御菜をふんだんに。
     下段、みたらしとおはぎのお団子セット。
    「んおお……」
    「まぁ愛らしい表情」
    「んおおおお!」
     マキノが感歎し、ノビルが垂涎して見る隣では、あまおとにも特製弁当が差し出され、
    「おぉーんっ」
     苦労人(犬)、月に歓喜を叫ぶ。
     箸が迷う処、陽桜は一口運んでやり、
    「よかったら、はい、あーん」
    「あーん」
     マキノがうっとり美味に浸れば、隣の雛も大口を開けて待つ。
    「アァンー♪」
     口に広がる秋の味に、ノビルは陽桜が好敵手である事も忘れ、
    「お月さまってうめェんスね!」
    「はい!」
     仲良し笑顔が重なった。
     今宵は月下の撮影会――徒がファインダー越しに瞶める千尋は、月明りを浴びてさぞ神秘的に映ると思いきや、稚気溢れる花顔を照らして、
    「へえ、流石中秋の名月、まん丸でめっちゃ綺麗だね」
     ほら、またシャッターを切る指を惑わせる。
    「――全く、僕の知らない顔をいくつ持ってるのやら」
     嘆息を零す代わりに満つ喜悦は、己しか彼女の表情を引き出せぬ優越感だろう。
     徒はリクエスト通り颯爽と、或いは可憐に、多彩な表情を見せてくれる専属モデルの愛しさを光に収めた。
     静寂の丘に座る樹と拓馬は、温かなブランケットを掛けて影を一つに、
    「この時期は、夜になるとすっかり冷えるわね」
    「うん、季節の変わり目を感じるようになってきたね」
     時の流れをゆったりと受け止めつつ、二人だけの会話を愉しむ。
     手を伸ばせば届きそうな――瞳に迫る月を仰いだカンパニュラは、拈華微笑の眴を交し、箒を手に丘を飛び立った。


    「徒先輩のリクエストに応えて、ハンバーグを作ったよ」
    「マリネにおにぎりに、温かいお茶も……うん、最高に美味しい!」
     普段はクールな印象のある千尋は、箸の動きを緊張気味に見守り、舌鼓には恥かんで――徒の前では斯くも可愛らしい表情を見せる。
     彼が満腹になった頃には、そっと膝を差し出して、
    「……ほら、今なら誰も見てないよ」
    「え、いいの?」
     二人で交した約束――膝枕をしてくれる。
     ころんと甘えた徒は、千尋に重なる満月を見上げて、
    「ああ、綺麗だなぁ」
     と、絶佳の景に瞳を細めた。
     月といえば兎、兎と言えばダンス。
    「うさうさお兄さんには、お月見ダンスを踊ってもらおうじゃないか♪」
     マグの縁より桜脣を離したさくらえが口角を上げると、麗笑を返した靱がスイッチオン。
    「さぁ、良い子のみんなー! レーッツ・ダンシーング☆」
     彼は体操のお兄さんよろしく月をバックにキレッキレのダンスを魅せ、バイト先の託児所で研鑽したネタを披露するに惜しみない。
     勿論、良い子は集まって、
    「月兎さん、付き合いますよ。いま、凄く踊りたい気分です!」
    「わふっ!」
     陽和が颯爽と駆け出せば、絆も尻尾をフリフリ追いかける。
    「ついついリズムに反応しちゃうな……」
     やはり歌を愛する凜、躍り出しから身体を揺らしていた可憐がハミングを交えて加わると、勇弥の傍でお座りしていた加具土はもじもじ、うずうず。
    「いいよ行っといで」
    「! おんっ!」
     主の声に弾かれた元気印は颯と走り出し、跳ねまくる回りまくる。
     愛らしい尻尾の舞いに空凛もほろと咲んで、
    「絆もはしゃいでいますね。最近、存分に遊ぶ機会がなかったかも」
     フィニクス特製「うさぎ型南瓜クッキー」(犬用)をご馳走に、広大な丘で自由に走り回る――極上の時を得た二匹を見守る。
     隣合う双調もこっくりと頷いて、
    「一曲、弾きたい気分ですね。三味線があれば良かった」
     今の笑顔に相応しい旋律が浮かぶようだと、手持ち無沙汰を窃笑する。
     そう、佳景は月下にこそ在って、
    「十五夜お月様見て跳ねるよりも、皆でダンスが確かに楽しいわね」
     涼子は猫を想わせる上がり目を艶羨に細めつつ、秋の夜長、仲間との夜更かしを心から愉しんだ。
    「こうして穏やかな夜を過ごすと、また一つ乗り越えたなと実感します」
     笑声を耳に手寅が思い起すは、先のグラン・ギニョール戦争――夜空を仰ぐ瞳は、丘を撫でる涼風より透徹。
     同じく戦争の記憶を過らせる天音は、少し離れた所で膝を抱え、
    「姉貴と離れて暮らす事になったあの日、強くなると誓ったのに、それなのにあたしはっ!」
     未だ癒えぬ傷を、人知れず涙にする。
    「……」
     言わずとも義妹の痛みに触れた鈴音は、そっと、
    (「君の身を案じてる仲間が此処にも一人いるんだよ」)
     同じ月を眺めているであろう戦友に、胸奥でぽつりと呟いた――。
     先の戦争で敗北を喫していたなら、月を見る余裕もなかったろうと、未知は今の佳月にふと言ちて、
    「こんな風に平和な時間が過ごせるのってありがたいよなぁ……」
     何気ない日常さえ珠玉と慈しむ者は多い。
    「うむ、中秋の名月は特別綺麗だねぇ」
    「わふっ」
     夕月はティンをもふもふと撫でつつ。
    「戦争だなんだで慌しかったから、こういう行事は有り難いね」
     アヅマは温かい緑茶をずずり啜ってしみじみと。
     一際さやかな月光の下、雑談を交す――恒例の流れをのんびり愉しんだ二人は、加速する時の中にも洒脱を失わず、
    「お付き合いありがとう、来年もお月見しようねー」
    「ん。それじゃ、また来年にな」
     来年も同じ月を観ようと――約束した。
     二人の絆【Flying witch's dream】に跨った拓馬と樹は、爽涼の風を肺いっぱいに、夜間飛行を愉しんでいる。
     誰よりも近く月光を浴びた瞳は眩しさに細んで、
    「戦いも一区切りして、こうしてのんびり過ごせて嬉しいよ」
    「忙しさに流されそうになる時こそ、こうした時間を持って原点を忘れないようにしたいわ」
     永遠の時を結ぶ【Immortelle】を、そっと繋げる。
    「また慌ただしくなるかもしれないけど、二人で大事な日常を過ごす為に頑張らないと」
    「そうね、――わたしも」
     ふたりでひとつ、月影に縁取られたシルエットは、長く永く空の散歩を堪能した。

    「ノビルに、おみやげ。煮るなり焼くなりすきにどーぞ」
     あの日、必ず連れ帰ると約束した夜奈は、蠍尾を引っ張って。
    「お待ちかね、あんさんの兄貴や! いっぱい甘えてえぇんどすぇ?」
     あの日、俯く少年に寄り添ったまり花は、広い背中をぐいぐい押して。
    「心配かけちまったな。タダイマ」
    「ぶああああ……」
     その声に、その姿に時を止めたノビルは、彼が両腕を拡げて『お前の好きにしていいぞ』のポーズを見せた瞬間、眼鏡を割る勢いで飛び込み、
    「うおおおおん錠の兄貴いいい!!」
    「悪ィ、寂しくさせた」
    「ぶええええ!!」
     わしゃわしゃと頭を撫でる掌に、遂に涙の堰を切った。
     女子―ズはみっともない男泣きに笑んで、
    「会いたかったろう、ノビルはん……ほら、あんなに喜んで」
    「リボンでラッピング、しといたほーがよかったかしら……キモいからやっぱなし」
     その隣、「困った様に笑うバカ面がムカつく」と視線を外した葉は、
    「気が済むまでサンドバックにしたれ」
     とは言うもの、彼の頑丈を保証するあたり、やはり信は厚い。
     あの日預けた言は、月下に届けられ、
    「誕生日おめでとな、ノビル」
    「あざす! 自分はかっけー兄貴と姉御に相応しい舎弟になってみせるッス!」
     びしり背筋を伸ばした少年に、始終を見守ったマキノが安堵する。
    「なんだか一回り大きくなったような……背、伸びたわね」
     仲間への尽きぬ感謝が、そっと目尻を潤ませた。

     本人は認めまいが、優はとことん優しい。
    「くぅ……」
    「次々放り込んでたらお腹一杯で寝ちゃったな」
     すっかり眠り込んでしまったヒトハを膝枕してやり、「今夜もおんぶして帰らなきゃ」と零れる吐息も満更でなく。
    「……海里、じゃれるな。ヒトハが起きるから」
     今こそ甘えたいワンコにむぎゅり団子を押し込んだ彼は、膝の月見草を撫でつつ、更ける夜、深ける秋を仰いだ――。
     お団子作りを頑張った陽菜もそろそろ限界か、嫌々と首を振って甘えん坊モード。
    「んぅ、やぁ……今日はお姉ちゃんと、一緒に夜更かしするのぉ……」
    「大丈夫ですよ。これから夜更かしもその他の楽しい事も、沢山やれるようになりますから」
     精一杯大人になろうとした少女を労うミルミの声は穏やかで、優しい温もりに意識はとろんと溶けていく。
    「今日はゆっくり休んでも良いんですよ。……ね?」
     髪を撫でる手に、瞼はしっとりと閉じていった。
    「あのね澪。私、月の兎さんに会ってみたいの……だからうさみ」
    「付けないよ?」
     深香が持つウサミミを即遮った澪だが、構ってくれる義姉に寄り添いたい時も――ある。
    「寒くない? もっとこっちに来て。風邪を引いたら大変よ?」
    「姉さん心配しすぎー」
     一度は上着を見せて強がったものの、その気遣いが嬉しくなった澪は、
    (「――今日くらい、いいよね」)
     そっと身を寄せ、安けき温もりに甘えた。

     月が綺麗ですね、と――。
     秘めた想いが溶けだすような月夜であった。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月4日
    難度:簡単
    参加:29人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ