この暑いのに両国ちゃんこ怪人とはどうかしてるぜ!

    作者:日暮ひかり

    ●scene
     東京都墨田区、両国。
     かの両国国技館を有する、日本の国技・相撲の聖地として名高い街だ。
     相撲の聖地、すなわち、ちゃんこ鍋の聖地でもある。
     そんな両国の、とあるちゃんこ料理店内の一角で事件は起きていた。

     ――ご っ つ ぁ ん で す――。

    「あぁーっと! ゴォォォン、という重々しい音と共に、今最後の鍋が床に打ち捨てられた! これぞ21世紀のちゃんこ維新、ちゃんこ開化の鐘の音ー!」
    「黙れクソバイト、他人事だと思いやがってッ!」
    「ぶごッ! 決まり手は、押し出しーッ!」
     うるさいバイトの青年をつっぱりでしばき倒すと、元力士らしき店長は改めて目の前の男を見た。
     髷を結った頭。浴衣に包まれた巨体。
     現役時代には見た事のない若者だが、恐らくこの男は力士だ。
    「店にある食材を全て食べきったら、この店はおいどんのもの……約束でごわす」
    「くッ。この店を奪ってどうするってんだ……!」
    「そっぷっぷっぷ……笑えるでごわす。この世に存在するすべてのちゃんこ鍋を、ソップ炊きにしてやるに決まってるでごわす。この店など、世界征服への足がかりにすぎんでごわす……そっぷっぷっぷ!!」
    「や、やめろッ!! た、確かにソップ炊きはうまい……。でも水炊きも味噌も塩も……チゲ風やトマト鍋だってうまいだろうが! そんな横暴許せるか。はっけよーい、のこったッ!」
     引退したといえど、こんな若造には負けぬとばかりに突進してきた店長を、巨漢はふんぞり返って見やる。
    「そっぷっぷ。甘い、甘すぎるでごわす……くらえ、うっちゃりビィィム!」
    「な……飛び道具、だと……ってかうっちゃり関係な、ぐわァーッ!」
    「そっぷっぷ……おいどんの考えた最強のSUMOU技が、人間なんかに敗れるわけないごわす。そっぷっぷ……そーっぷっぷっぷっぷ!」
     
    ●warning
    「ったく……この暑いのに両国ちゃんこ怪人とはどうかしてるぜ」
     鷹神・豊(高校生エクスブレイン・dn0052)が、ため息と共にそう呟く。
     そして、彼はおもむろに廊下の方へ歩き出した。
    「……お察しする。夏休みの最中にちゃんこ怪人、この世にも不吉な響き。君達が俺に背を向け逃げたくなる気持ちもわかるぞ」
     スパァァン!!
     壊れんばかりの轟音を立て、教室のドアが閉めきられる。
    「ふ……俺の事はゴキブリホイホイ鷹神でも蟻地獄鷹神でも好きに言え」 
     てきぱきと資料を黒板に貼る、ゴキ神様。
    「えー、今回戦って頂く野郎だが、力士風に見えても身体はほぼ脂肪。使う技も相撲のパチもんだ。そこで、便宜上奴の名は怪人ヌモワレヌラー……略してヌモラーとする」
     ヌモラー。
     相変わらずの情け容赦ないネーミングだった。
    「本来、ちゃんこ鍋というのはさまざまな味や具材を楽しむものだ。だが、奴はソップ炊き……平たく言えば鶏がら醤油味の狂信者で、この世の全ての鍋をソップ化する気でいる。今回、とあるちゃんこ料理店に奴が現れるのを察知した。君達には奴を阻止し、灼滅してきてもらいたい」
     怪人ヌモラーは、普段は人間の姿をしている。
     その状態を襲撃しようとすれば、鎖の予知が発動し逃げられてしまう。
     だが、もし怒り心頭な事があれば変身を解き、フルパワーで襲ってくるだろう。
    「現場に突入するのは、少なくともヌモラーがすべての鍋を食べきる前にした方がいいと思う。奴が来る前でも構わん。どんな方法で怒らせるかは君達に任せるな」
     肝心のヌモラーの攻撃について聞かれると、鷹神は真顔でこう言った。
     
    「蒸された鶏の如く汗をかいた身体で熱いボディプレスを行う『つっぱりキック』」
     キッ……ク……?
    「煮えたぎるスープの如き熱波を発射する『うっちゃりビーム』」
     …………。
    「牛の如く厚い腹の脂肪に埋もれた相手を大爆発させる『よりきりダイナミック』」
     ………………。
     
    「あと二種類ぐらいあった気がするが、どれも似たり寄ったりだ」
     暑苦しさと、技名のクソデタラメさだけは皆によく伝わった事だろう。
     灼滅者よ、これがNUMOW(ヌモワ)だ――!
     たぶん。
    「……こ、古人曰く、心頭滅却すれば火もまた涼し。暑いと思うから暑いのだ。俺も一週間クーラーはつけない事にする。さあ、灼滅せよ!」
     どうでもいいけど、灼滅って漢字だけで体感温度上がるよな。
     遠い眼をした灼滅者たちはそんなことを思っていた、かもしれない。


    参加者
    皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    森田・依子(深緋の枝折・d02777)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)
    螢揺・詠祈(桜祈想・d15122)
    レイス・クラリス(ヒステリックおばさん・d18446)
    双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)

    ■リプレイ

    ●夏休み特番! クロネコ・レッド×魔法力士セキトリマジカル、はっじまっるよー!
     よいこの皆、元気かな? 暑さで虚ろな眼になってないか?
     今日の灼滅者は相撲甚句の流れる粋でいなせなちゃんこ店にお邪魔しているぞ!
     よいこの心得その1!
     いただきますの挨拶は、鍋が煮えるまで待つべし。
     この螢揺・詠祈(桜祈想・d15122)ちゃんのようにキラキラしたまなざしを鍋に注ぐのだ。見よ、澄んだ塩ちゃんこのだしにも劣らぬ無垢な瞳の輝き!
    「昴おねーさん、おいしそーですよー」
    「塩ちゃんこいただきまーす!」
    「あっ」
     ひょい。
     ぱくっ。
     おねーさーーーん!
    「鍋とはね……戦争なのよ」
     ドヤァ……。
     大家族に生まれた悲しき宿命がこうさせるのか。さっぱり塩味が染みだ柔らか鶏肉が次々と黒咬・昴(叢雲・d02294)おねーさんの口へ……!
    「えうう、酷いのですー! ぱわーはらすめんとですー」
     仲良くお食事の時代よ、さらば。ぱわはらに涙する詠祈の皿に魔の手が忍び寄る!
    「そぉーーっぷ!!」
    「きゃあー!」
    「そっぷっぷ……醤油と鶏ガラの懐かしくも奥深い味、ソップ。食べるでごわす!」
    「うああん、スープしかないのは嫌ですー!」
     早くも怪人ヌモワレヌラー登場だ!
    「出たな。ちびっこを虐めるとは気に入らん」
    「誰ごわす!」
     ヌモが振り返った先には皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)が居た。彼の前の鍋を即座に覗くヌモ。
    「カ、カレー鍋でごわすとォォー!!」
     カレー好きとしては当然だ。牛肉豚肉や人参は勿論、じゃがいも入れても美味いぞちゃんこ!
    「国民食であるカレーと鍋のタッグは超獣コンビ並に至高……この汎用性の高さにはソップ鍋など永遠に及ばん。ちなみに超獣コ」
     以下略。長々うんちくを語りつつ、〆のご飯とチーズを入れる幸太郎。カレーリゾット作る気満々だ。
    「最強のちゃんこはソップ、最強の格闘技も相撲……なぜどいつもこいつもソップ食べないごわす!」
    「そっぷってなんですか? スコップですか? うたは知りません。ねえねえそっぷってなんですかー?」
     13歳に素で聞かれブロークンハートヌモ。
    「ゾック?」
    「ソップ!!」
    「あぁゾークね」
    「ソップ!!!」
    「夏祭りは終わったわ。夜行バスで地方帰んなさいオタデブちゃん」
     くッ……昴の言葉でなんか際どい結界が崩れかけてる……これ以上喋らせたら世界が崩壊するわ!
    「おねーさんはお肉食べててくださいー」
    「あらそう?」
     ひょいぱく。
    「えうう……。なべぶぎょーさん、お店で騒いじゃだめですー。お行儀よく食べないとメッです!」
     聞き間違われ、13歳に叱られ、センチメンタルヌモ。
    「俺は味噌炊きだなー。味噌と醤油のハーモニーは日本人の心!」
    「ぬ、ここにも異教徒が!?」
     ヌモの視線の先には、今まさに鍋から鶏団子を掬う文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)と森田・依子(深緋の枝折・d02777)の姿が。人参やキャベツ、大根などの野菜も煮込まれ、良い感じにしんなりしている。
    「暑い時に暑いもの。健康にもいいですし、お味噌が鳥に染み込む感じ……美味しいですねぇ」
     濃厚な味噌にピリ辛七味唐辛子が実にホット。ファイアブラッドの依子嬢も太鼓判だが、猫舌の君は注意だ。普通なら少し冷まさないと火傷するぞ!
    「味噌食いたきゃ名古屋行けでごわす!! ソップ食え!」
    「んー、オーソドックスすぎて……ちょっと」
    「ふっ……味噌炊き抜きでちゃんこを語るなんざ、お前さんにわかかい?」
     ドヤァ……。
     COOLに人参を咥えた直哉こそ実はにわかチャソコマンとは知らず、怒りに震えるヌモ。ちり鍋の白身魚を名残惜しげに口に入れると、双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)がトドメを刺すべく立つ!
    「そっぷは確かに美味ですが、それだけで満足するなど、序二段で相撲を極めたと言い張るようなものです! そもそも、そんなにそっぷへの愛を語るなら、体型をそっぷ型にしてから出直して来なさい!」
    「そーーーっぷ!!」
     ヌモラーは たおれた!
    「豆知識です。相撲用語では、肉付きの良い力士をあんこ型、逆に痩せ型の力士をそっぷ型と言います!」
     結構皆同じ事を思っていたらしく、幸喜のツッコミと解説にうんうん頷いている。
    「……っぷっぷ……そっぷっぷ……」
     うわなんかヌモラーがおきあがりわらいながらこちらをみてるぞ。
    「もーー許さんでごわーーす! 決闘でごわす!」
    「うっさいわね、静かに食べさせろや!」
     昴がダァンと机を叩き、親指で店の外を指す。さあ、人目のない路地裏までしっかり誘導できるかな?
    「関島さんがやってくれると……」
     すかさずリリーフするレイス・クラリス(ヒステリックおばさん・d18446)!
     あれ、そういえば関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)はどこへ。

    「冷房の中で食べる鍋って贅沢だよな。旨いし今日の食費が浮いた」
     いた。
     全ての鍋を食べて回っていた故に偶然映らなかった悲劇。
     味噌ちゃんこの〆のうどんを啜り、スープも綺麗に飲み、更に鍋の底を探る峻お兄さん。
    「ん、鮭だ。ラッキー……鮭弁の鮭とは全然違うな」
     峻ェ……べ、別に憐れんでなんかいないけど、領収書は忘れずに切れよなっ!
    「ああ、いたのかヌモ。お前の事は考えないようにしてたから気付かなかった」
    「変なあだ名つけんなごわす!」
     今更なツッコミ。
    「ソップ炊きは不味いし時代遅れだ。それに比べて塩や味噌は神の味……」
    「峻ーもう挑発終わってるぞー!」
     直哉までツッコミ。
    「そうだったのか。とにかく、店を奪う気なら、壊さない場所で決着をつけないか」
    「元よりそのつもりごわーす! まずは貴様らからソップ信者にそーっぷ!!!」
     世界が羨む峻クオリティ。天然なのかわざとかは謎だが、ヌモはすごく怒ってた。
     
    ●副都心に人通りのない路地裏は、あるかもだが、あんまない!
    「頑張れ、セキトリマジカルー!」
    「両国は私達が守ります! 観覧は離れてお願いしまーす!」
    「ぐぬぬ……でごわす」
     プリンセスモード☆セキトリマジカルに地元人気を取られ、歯ぎしるヌモ。ちゃんこ鍋の頭部を持ちまわしを締めたヒネリのない姿はこのさいスルーで。
     戦場内の音はレイスヒスババアさんが遮断したので、これ以上騒ぎにはならないだろう。
    「今誰かババアっつったな!? 私はまだ15よおおおおおおおお!!」
    「幻聴、幻聴!」
     チェーンソー剣のエンジンをブォンブォンするレイスを皆が必死に押さえる。
    「そのたるんだ身体をスリムにしてあげるから感謝しなさい、豚……!」
    「ヒィッ!」
     悪者すらビビらせる眼力。肝試しの幽霊役のオファーは武蔵坂学園を通してくれよな!
    「お断りじゃああああ!!」
    「ヌ、ヌモでも豚でもないでごわす! 本名は」
    「知るか! そのたるみ切った腹! 腐りきった頭! 私が叩いてぶちまけてあげるわ!」
     昴はブレードとは名ばかりの銀色の棒状の何かを敵の腹部に振り抜く!
    「脂なめるなごわす。そっぷんっ!」
     なんと厚い脂肪に杖が跳ね返された。そのままぷんぷんと昴につっぱり連打だ!
     ちなみに重量型力士のつっぱりの衝撃は自動車事故と大差ないという。怖い。おねーさんを助ける為、影で怪人を縛る詠祈。
    「しゅぎしゅちょーを押しつけるのよくないですー。お日様に代わってお仕置きするのですっ」
    「というか、世界征服したいならまず視覚面を何とかしろ。可愛い女子を看板娘にするとかさ」
     ボンレスハム状態の贅肉にぬもっと峻の拳がめり込んだ。汗ですべる。すごく、やだ。
     そしてヌモラーのぬもっとした眼が女性陣へ。
    「ぱ、ぱわーはらすめんとです。こくはつしますー!」
     詠祈、半泣き。
    「ぬるいわ。死刑ッ!」
     昴、キレる。
    「現実が見えたか。とりあえずその暑苦しい見た目は何とかしろ!」
    「なんか着ぐるまれてる奴に言われたくないごわす!」
    「たなびくスカーフは赤味噌の赤、ネギより尖った二つの眼。見た目は暑く実際暑い……クロネコ・レッド、見参!」
     ニャキーン!
     自殺行為だとしても着ぐるみ道を往く。天晴クロネコ・レッド、もとい直哉少年。顔色悪いぞ大丈夫か!
    「ふっ。路地裏なら日陰になって涼しいかと思ったが、そんな事なかったぜ! 食らえ、味噌炊きちゃんこ旨いぜビーム!」
     ズドーン!
     芳しい味噌の香り!
     前線で展開される死闘。その時後衛の幸太郎と依子は――!
    「あの技の使い手がまだ存命していたとは……」
    「出来る限り組み合いたくはない手合いですねぇ」
     20mぐらい後ろの電柱の影でなんかシリアススナイプモードに入っていた。
     こっそりオーラキャノンで敵の急所を狙い撃つ依子。
    「強引に愛を語っては、布教も統一もできるわけないわ。彼の行いを認めるわけにはいきません」
     ――この状況で汗ひとつかかずに……この女、出来る――。
     ――前衛、ファイト!
     微妙に噛み合ってない二人だった。
    「仕方ない。この技だけは封印しておきたかったが」
    「幸太郎君……? まさか、それは」
     暑さで心の声まで狂い始めた幸太郎。彼の影が刃の形を成してヌモに迫……や、やめろッ! その技のエフェクトは確か――『服破り』ッ!
    「いやあああああ!! 急所にクリティカルーー!!」
     響く誰かの絶叫。
    「も、もろだしは嫌でごわすぅ!」
    「それは俗称です! 正しく不浄負けと言ってください!」
     流石の指摘だセキトリマジカル!
    「よりきりダイナミック・恥じらいスペシャル!」
    「え……? う、うわぁぁー!」
     迫る脂肪の壁。体を包む火照った肌。その時、峻は初めて覚悟した。
     あ。
     俺、死ぬかも。

     ここ半年位の出来事が走馬灯となり駆け巡る。
     色々あったな……。
     瓦礫に突っ込んだり、腹を抉られたり、後頭部強打したり、自爆に巻き込まれたり、崖から落ちたり。

     いや色々ありすぎだろ!
     よく生きてるな!
     誰だ毎回峻にこんな仕打ちしてる奴は……きっと卑怯のひが頭文字にくるような外道に違いない!
    「峻ーー!」
     どーん。関島峻、爆風に散る!
    「俺が隣にいながら……」
     直哉が膝をつく。路地裏に広がる炎を、幸喜は哀しげに見やった。
    「こんなの相撲じゃない……! 真の相撲の力……相撲魔法を見せてあげます!」
     そう大声を張りあげ、幸喜は虚空につっぱりを連打し始めた。何とつっぱりから生まれた光輪が集まり、攻撃を跳ね返す治癒の力場を前衛に展開していく!
    「ヌモワだ」
    「ヌモワね」
    「ヌモワではありません! 相撲の力による魔法で、これ以上の犠牲は止めます!」
     峻の死を乗り越え、いざゆけ灼滅者。勝利は悲しみの先にある!
    「いや、俺生きてるんだけど……」
     こんな死因は絶対嫌だ。大丈夫、いつか良い事あるさ!
     
     で、このコントの間密かにまわしを正していたヌモ。だがぶぉんぶぉん不吉な音がし始めた。
    「削ぎ落としてあげよう……」
     出たーレイスおばさんだー!
    「ちょ、ちょっとタン」
    「はっけよーい……のこったァァ!」
    「そぉぉっぷ!」
     服破り増殖。
     『文句はそこの二人に言って』というレイスの鶴の一声で、怒りは峻と直哉に向いた。理不尽ッ!

    ●そして戦いは続く!
    「ゴキ神め……」
    「帰ったらゴキ神様を縛り上げようと思うのだけど」
     OK、特典映像でやれ!

    ●正直どうかしてたぜ
    「で……何でこいつ、炎上してるんだ?」
     
     歪む大気。舞い上がる火の粉。後衛まで届く凄まじい熱波を浴び、幸太郎は一周して素に戻った。
    「ま、まだごわす……そっぷを広めるまで死ねないでごわすぅぅ!」
     ゴオオと凄まじい炎をあげ、一部凍った状態のまま燃ゆるヌモ。
     戦いは露骨に終盤だったが、本当なぜこうなった。下手だな編集!

     ――愛の押し売りだけじゃなく、ごはん処で暴れようと言う所業も万死です。
     ――お仕置きですー!

     笑顔で冷気の氷柱を撃ち込む依子と、爆炎の弾丸を撃ちまくる詠祈の声が幸太郎の脳内にエコー付きでこだます。何やら映像も視えてきた。
    「これは暑さが見せてる幻覚なんだ……シャドウが見せてる夢な」
    「頭を冷やしなさいな、たっぷりと」
    「もっともっとですー」
     ズガガガガガッ!
     現実つらい。女子こわい。
     夏の空を舞う氷柱と炎弾は、ガマン大会を通り越し終末感を醸し出してすらいる。そんな中、一人涼しい顔で佇む依子は異彩を放っていた。
    「美味しいものも食べれたし、悪くない依頼でしたよね」
     にこっ。
     素で言ってるらしい一言に皆無言になる。大人しそうな顔してこの子は!
    「ああ。ソップも他の鍋も皆旨い……それで良いんだ」
     空を見上げ黄昏る峻。待て、勝手に〆るな!
    「ぬおおォォ! のこった、のこったッ!」
     次々現実からの脱落者が出始める中、最後の力を振り絞りヌモラーは直哉目がけて跳躍した。ボディプレス、もといつっぱりキックに潰される寸前、直哉は敵のわきに腕を滑り込ませる!
    「ふっ……お前さん形は力士でも、ちゃんこの味が染みてない様だな!」
    「な……これはまさか、掬い投げでごわすとォ!?」
    「行くぞ。毎日色んな味が楽しめる、それがちゃんこの醍醐味だろうダイナミーック!」
     炎上する巨体をすくい上げるように――投げ返すッ!
    「ま、負けたでごわす……おいどんが、相撲で……」
     地に伏したまま、放心しているヌモ。
     ソップ型になりたかったという切なる願いが、彼を闇に堕としたのだろうか――幸太郎が男に歩み寄る。
    「お前も辛かったんだな……」
     しんみりした空気が辺りを包む。
     灼滅者達の滴る汗が、夏の日差しにきらりと耀く。幸太郎は、かつて人だった男に手を差し伸べ。
    「なんて感動するわけないだろこのアンコ野郎オラーッ!」
    「そぉッぷ!」
     かーらーのー閃光百裂拳だーッ!
     一瞬本気で同情した峻の立場は。
    「いいこと、鍋とはね……戦争なのよ。味の押しつけをするということは、後はわかるわね……?」
     昴が拳をゴキゴキ鳴らす。
    「もしかしてつっぱりですかーッ!?」
     たまたま百裂拳を持っていた者達のつっぱり連打を浴び、ただでさえでかい図体が腫れ上がっていく!
    「最後はこの技で決めます。大相撲ビーム!」
    「おいどんが死んでも、そっぷは死なず……新弟子を楽しみにそーっぷ!」
     幸喜の撃ち出した力士型ビームが決まり手となり、そういえば本名不明だった怪人は両国の空に散ったのだった――。

     その後。
    「俺はここまでだ……クロネコ・レッドの事、時々思い出してくれよ」
    「直哉ーー!」
     暑さで殉職しかかった直哉を始め皆ヘロヘロだったので、今日は帰る事にした。今度また皆でちゃんこを食べよう、と約束しながら。
    「本当はそっぷ炊きも美味しいんですよ!」
     だから、是非ご馳走したいのだと幸喜は言う。怪人のせいでイメージが悪いままなのは、勿体ない。
    「ええ。今度は我慢も無理もせず、クーラーの効いた部屋で、ね」
     次はもう一人分必要になるだろう。ゴキ神を自称していた彼を思い、依子はくすりと笑うのだった。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 9
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ