
夕日に赤く照らされた大きな公園に、豆の香ばしい匂いが漂う。落花生のカラに手足が生え、シルクハット、くるりとした口ひげ、手にはステッキと、紳士風の落花生怪人が、黒いマントを風に揺らしながら滑り台の上に立っていた。
満足そうに頷き、そこから滑り降りた落花生怪人は、ふほほほ、と奇っ怪な笑い声を上げて猛ダッシュで公園内を走る。そして、ベンチで放課後デートを楽しむ高校生カップルを見つけると、彼らの前に胸を張って立った。
当然二人は呆気に取られるわけで。落花生怪人は一呼吸ののちに、大量のカラ付き落花生を二人に投げつける。
「むほ、千葉県の落花生は本当にウマイぞ。くれてやるから、帰って二人で食すがよい。世界征服、そして落花生普及のため、公園はワシがもらい受ける。……さて、丁重にお帰りいただくのだ」
怪人の背後から筋骨たくましいピーナッツが現れ、二人の座るベンチごと担ぎ上げると、公園の出口へ去っていく。その後も、あちらこちらから悲鳴が聞こえ、支配は順調だと、落花生怪人は公園の倉庫から持ってきたクワを手にするのだった。
教室に集まった灼滅者たちを一通り眺め、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が咳ばらいをした。
「以上が現在起きている事件のあらましだ。人的被害はないが、落花生怪人は野球場の土を掘り起こして畑を作ろうとしている。そしてこの街の者に落花生の良さを知ってもらうことが目的だそうだ。お前達には、灼滅もしくは公園から怪人を追い出してほしい」
灼滅者たちは互いに頷き合う。
ヤマトは教室にあった紙を引っ張り出して机に広げると、公園の簡易な見取り図を描いた。
公園の中心には野球場、その周りに木々に囲まれた遊歩道といくつかの小さな公園がある。出入口は東西南北に四ヶ所。その北側に丸印を付けた。
「出入口には先の屈強なピーナッツが侵入を阻んでいるが、北側の出入口は手薄との報告がある。ここから潜入するのがいいだろう。なお、公園は広く、ここの見張りを倒したところで応援を呼ばれることはない。また、公園はすでに占拠されているから一般人の避難をする必要もない」
灼滅者の一人が遭遇場所を尋ね、ヤマトが野球場を指差す。
「怪人と配下のピーナッツが一体ずつ野球場にいる。野球場への入口は、先程話した北側から公園に入ったら、遊歩道に沿って右手に進め。そのさい西側の入口近くを通ることになるから、走るなど物音がするような行動は避けた方がいい」
手元の見取り図に赤ペンでルートを示し、話を続けた。
「怪人に接触した際は戦闘となるが、怪人は落花生の良さを知っている者には手加減をする。逆に、けなした者には容赦がない」
怪人たちの戦闘能力については、配下は近距離の殴りと蹴りが強力で、怪人は豆を高速でまき散らす遠距離の列攻撃、そして回復を得意とすると皆に伝えた。
「怪人は、皆に落花生の良さを知ってもらえれば、公園から出ていくとの報告もある。何かしらの情報を持っておいて損はないだろう」
情報は、食べ物、物品、文字通りの豆知識、なんでもいいと付け加えて皆を見渡す。
「ひとたび戦闘になれば、それなりに厳しい戦いになるだろう。だが、お前達ならばきっと撃退することができる。そう信じて待つことにしよう」
ヤマトはそう言って灼滅者たちを送り出した。
参加者 | |
---|---|
![]() 早鞍・清純(全力少年・d01135) |
![]() 九井・円蔵(墨の叢・d02629) |
![]() リーファ・エア(夢追い人・d07755) |
![]() 三園・小次郎(かきつばた・d08390) |
![]() 神木・璃音(アルキバ・d08970) |
![]() 雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204) |
![]() 鏡・エール(ちゃんと十四文字以内です・d10774) |
![]() フィーバス・ロット(太陽の約束・d23665) |
●丸っこい門番
良く晴れた日中、灼滅者たちは公園の北側入口付近に集まった。入口には二体のピーナッツが、忙しなく体を動かしながら見張りをしている。
見張りの死角に身を隠し、雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)が口を開く。
「確かにここは手薄ね。ここへ来る前に東側が遠巻きに見えたけれど、五から六体のピーナッツが壁のように阻んでいたわ」
「作戦通りで大丈夫だね」
そう答え、フィーバス・ロット(太陽の約束・d23665)が頷いた。
「頑張ろうね、芝丸っ」
「わふっ」
鏡・エール(ちゃんと十四文字以内です・d10774)の呼びかけに、芝丸が低く渋い声で返した。三園・小次郎(かきつばた・d08390)も霊犬きしめんの頭を撫でる。
「行きましょー。……風よ此処に」
解除コードを口にしたリーファ・エア(夢追い人・d07755)の隣にも霊犬が現れる。そして霊犬たちが右側の見張りへと斬魔刀を放った。
九井・円蔵(墨の叢・d02629)と早鞍・清純(全力少年・d01135)が目を合わせると、円蔵が影を伸ばして左の見張りを絡めとり、清純が神霊剣で攻撃をする。
反撃の隙など与えずに、見張りは小さなピーナッツとなって砕け散った。
そして情報に従って、北の入口から公園に入った灼滅者たちは、遊歩道を右手に進む。野球場は低くも壁に囲われているために中の様子はうかがえない。三分ほど歩くと、西側の入口が見えてきた。
「きしめん、ちょっと入っててね」
優しく声をかけた小次郎が、霊犬をスレイヤーカードにしまう。エールと清純も、西側の入口を越えるまで細心の注意を払い続けた。
野球場への入口が見えてきたところで、神木・璃音(アルキバ・d08970)がヘッドフォンを外す。
「さてと。怪人との戦いの時、見張りに気づかれても厄介なんで、サウンドシャッターかけときます」
そう言った璃音がサウンドシャッターを展開した。そして扉を開けてグラウンドへ入れば、落花生怪人と、屈強なるピーナッツがクワを手に、今まさに土を耕そうとしている時だった。
こちらに気づいた怪人が、体を斜めに傾け何かを考えている。思い当たったのか、手を打った。
「むほ! そうか、そうか。畑作りを手伝いにきたのだな。良い心がけだ」
「違いますよぉ、ヒヒ。ここから出て行ってくれませんかねぇ」
「むむ、お断りだ。ここはワシの場所であるゆえ、出て行くのはお前たちの方よ。聞かぬならば、力づくで出してやるまで」
怪人、そして配下のピーナッツがクワを投げ捨て、戦闘体制となった。
●まめまめまめ
「ごめんね、帰るわけには行かないだ。それより、あなたの活動開始が半年遅かったら、11月11日の落花生の日に会えたかもしれないのに。残念」
エールはそう語りかけ、片腕を巨大化させる。
「吹き飛ばすよー!」
そして凄まじい力で配下を殴り飛ばした。
「うおぉぉ落花生の日、だと……。しまったぁ。考えていなかった!」
怪人はショックを受けたようで、両手で頭を抱えようとした。だが、腕が短く届かずにもがいている姿は、なんとも滑稽である。
「そしたら、あんた達の仕事はこれで終了ってわけで。どーもお疲れ様でしたー」
淡々と言い放った璃音が日本刀に炎を宿し、レーヴァテインを配下へと放つ。その炎を追うように、小次郎から放たれた紫色の光が配下を包んだ。
「愛知のご当地ビームの味、土産にくれてやるぜ!」
「ダイナミックナッツー!」
叫んだ配下が走り出し、清純を高く持ち上げると飛び上がり、地面に叩きつける。砂煙が舞う中、すぐさまフィーバスがジャッジメントレイの癒しの光を彼に与えた。
「この光が仲間の助けになりますように」
「ありがとう!」
服の汚れを払った清純は、クルセイドスラッシュで配下へと斬り込み、反撃をする。
リーファの霊犬が斬魔刀を、そしてリーファも白い光を武器に宿しながら配下へと走り、強力な斬撃を配下へ与えた。
「怪人さん、この配下のピーナッツって、あなたの中身じゃないんですか? 中身なくなっちゃいますけど、それでいいんですか?」
「むほ。お気遣いは無用。さて、ご当地はご当地でお返しだ。くらえ、落花生ビーム!」
立てた腕の先から、フィーバスに向かって光が放たれたが、きしめんが彼の前に立ちはだかり、それを庇った。
「いい子ですねぇ」
それを見た円蔵が口角を上げ、視線を怪人たちに向けると、殺気をどす黒い煙に変えた。そして怪人たちを包み込む。続けて鵺白が螺穿槍で怪人を突いた。
「ぬおお! きさまら、中々やりおるな!」
怪人が悔しそうに身を震わせたかと思うと、大きく息を吸い込んだ。次の瞬間には、豆が弾丸となった怪人のバレットストームが前衛を襲った。強力な攻撃は、灼滅者たちにダメージを与える。
フィーバスが皆を夜霧隠れで癒し、少しでも攻撃の手を緩めてもらおうと怪人へと向き直った。
「そうだ、落花生って見た目も素敵だよね。初めて見た時は何が入ってるんだろうってワクワクしたよ。ひょうたん型のカラが何だか可愛いよね」
「落花生といえば、バタピー! 柿ピーも捨て難いですねー」
リーファも熱く語る。
怪人が満足そうに頷いた。
●質疑応答
「むふふ」
「落花生って栄養がたくさんあって、美容に良いのよね。老化や成長にも良いって聞いたわ。お菓子や色んな料理にも使えるし、本当に素敵よね」
「俺は見た目もかわいい落花生の最中も捨てがたいけど、パイが好きだぜ。あ、落花生ラングドシャも美味しかった。悩ましい! ちなみに、お前のオススメ落花生スイーツって何?」
霊犬に回復を任せている間に、鵺白と清純も今のうちにと語る。鵺白の真剣さと清純の質問に、怪人は尚更機嫌を良くしたようだった。
「むほ、ワシのオススメか! それはずばり、落花生シェイクだ。落花生の甘味と喉越しが柔らかくてだな……実にウマイ。ああ、スイーツではないが、ピーナッツ味噌もオススメだぞ。他には何か知っておるか」
「俺知ってるぜ! 『落花生』って名前は『花が落ちて生まれる』って意味なんだろ。なかなかロマンあるよな」
小次郎が言った。
「北に近いところでは、節分に使う豆は、大豆ではなく、落花生を使うそうですね。ヒヒヒ、それと落花生の油は、オレイン酸が多く入ってて案外ヘルシーなんですって。さすが落花生は凄いですねぇ!」
「確かに落花生って凄く体に良いってきいた事あるっすよ。動脈硬化に良いとか老化防止とか。ピーナッツバターも美味しい」
円蔵が褒め、璃音がたたみかける。
皆からの言葉に怪人が杖で地面を叩いて高笑いをした。そしてくるりと踵を返すと天に向かって腕を伸ばした。
「うむ、満足だ。こんなにも落花生のことを愛している者がいるとは……。ここを拠点に広めていこうかと思ったが、もはや不要だな。皆の者、さらば!」
ウィンクをして、突如怪人が野球場を出て行こうとする。だが皆で立てた今回の作戦は灼滅だ。ここで逃がすわけにはいかない。
「呼び戻します。……あーそうそう、落花生ってウマイっすけど、ただ、むくのめいどいっすよね」
「…………」
そう言い放った璃音の言葉に怪人の足が止まる。そして体を震わせると、猛ダッシュで戻ってきた。再びのバレットストームが皆を襲う。
「貴様、むくのが面倒ならば、むいてある豆を馳走してやろう! たっぷりと味わえぃ!」
配下もリーファへ襲いかかる。リーファは負けじとクルセイドスラッシュで応戦した。フィーバスはその間に霊犬たちともに皆を回復する。
「砕け! メイキョウシスイ!」
「倒しちゃいましょう、ヒヒヒ」
エールは、クルセイドソードで配下へダメージを与え、円蔵がティアーズリッパーで懐へと斬り込む。そして、狙いをすました鵺白のクルセイドスラッシュの一撃が配下を貫いた。配下のピーナッツが、小さな爆発をして消え失せる。
●ご当地よ、永遠に
こちらの番だと、清純は神霊剣を、小次郎がご当地ダイナミックで攻撃をした。
怪人がウロボロスシールドで回復をはかった。璃音が、すかさずエンチャントの破壊をする。
「準備はいい?」
リーファが霊犬の頭を撫で、エールと小次郎に目を合わせた。二人も頷き、そして三人同時に命令を出した。
三体の霊犬が六文銭射撃を一斉に行う。怪人が怯んだ隙を見逃さずに、命令を出したリーファとエールも攻撃を仕かけた。
リーファはクルセイドソード『L・D』に影を宿らせ、トラウナックルで攻撃をする。
「さぁさ、受け止めてよファイア! 燃え尽きるまでヒート!」
エールが炎を操り、小次郎は怪人の前で、大きく身をひるがえしながら、足を蹴り上げる。
「鯱キック!」
シャチホコのような見事な軌跡を描いたキックは、怪人の体をとらえて吹き飛ばした。
怪人が高く飛び上がり、璃音にご当地キックを放ってきた。璃音は掌に青い炎を溜め、接触の瞬間に炎を解放する。互いのサイキックがぶつかり合い、相殺された。
「ぬおおぉぉ!」
怪人のカラに、ぴしりとヒビが入る。
「もう一息ね。フィーバスくん、一緒に」
「連携だね。了解だよ」
フィーバスは裁きの光を集め、鵺白は妖の槍を握りしめた。そして連携して、ジャッジメントレイと螺穿槍を繰り出す。
円蔵は大鎌を手にし、空を切る。切れた空間から飛び出た無数の刃が怪人に降り注いだ。
「これで終わりだぜ!」
清純がクルセイドソードを振り上げる。そして白い光の尾を引きながら、最後の一撃を怪人に浴びせた。
「ぬおぉぉ! 落花生よ、永遠なれー!」
怪人の体の中から眩しいほどの光が溢れ、刹那小さなピーナッツをまき散らしながら爆発した。同時に見張りのピーナッツも同じように爆発する。
「終わったね」
小次郎はきしめんを撫で、ねぎらった。
(愛知の食べ物優れてる結果だよね、きしめん!)
鵺白が辺りに散らばったピーナッツを眺めて苦笑する。
「見事なまでに自己主張しながら散って行ったわね。あの怪人らしいわ」
「同意します。これだけあると食べ放題ですねぇ」
「あ、じゃあ、せっかくだから皆でピーナッツ食べようよ!」
リーファの言葉にエールが提案する。璃音が頷いた。
「確かに食べたいっすねー」
「そう来ると思って、ボク、ピーナッツバターをたくさん塗ったパンのお弁当を持って来たんだ。皆で食べよう」
フィーバスがスレイヤーカードからお弁当を取り出す。
「ヒヒ、いいですねぇ。ぼくも帰りにピーナッツバターを買って帰りましょう」
「俺も家の土産にお菓子何か買ってこうっと」
円蔵と清純は土産に心おどらせた。そして灼滅者一同は、一時のピーナッツ祭を楽しんだのだった。
作者:水瀬いつき |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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